2日の当直で感じたこと(1)

なんだか頭の中がもやもやしている。何がって、2日の当直で体験した様々のこと。あまりにも濃密だったので、自分の中でカオスとなって渦巻いている。それを整理するために、二回に分けてBlog書きます。題して「2日の当直で感じたこと」。次の二点で語る。

#1 気管内挿管できた!

#2 ナースの視点、まるちょうの視点


まず#1から。まるちょうという医師は、諸般の事情あり、体系的な臨床のトレーニングを受けていない。極端に苦手な分野とか手技が結構ある。だから、診療所の内科医ならまだいいが、病棟勤務としては、いささか不安が残る。例えば気管内挿管(以下、挿管)という手技も、ずっと苦手意識を持ってきた。具体的に言うと、まずは2004年5月4日の日記。この時は日当直をしたのだが、挿管する場面になって、三度目にようやくblindで入れている。これはあくまでも「たまたま入った」という代物であって、医療事故すれすれの今考えても汗が出てくるシーンだ。それから4年後の2008年9月7日のBlog。この時は見事挿管に失敗。お得意の食道挿管である。これではいかんと、挿管の手技を解説したDVDを大枚はたいて購入。毎週金曜日の救急番の前日には、欠かさず見て、イメトレしていた。しかし、2009年の春頃から救急番を離れることになり、DVDを見ることもなくなっていた。


前振りが長くなりました。上記のような流れがあって、今回の当直に至る。89才の男性で、睡眠時無呼吸症候群に関連した呼吸不全で入院。準夜帯でナースに「いつもとは違う感じ」を報告されて、検査するも異常なく、酸素吸入で経過観察としていた。そして救急外来がバタバタしている深夜1時半頃に、呼吸状態悪化にてコール。外来が忙しすぎて、なかなか病棟に行けない。やっと切りのいいところで病棟に上がると、すでに下顎呼吸。ナースが5、6人群がっている。「えらいとこに来たなぁ」と尻込み。個室へ移動した後、ほぼ呼吸停止、心停止。ここで大事なのが「急変時にどうするか」の取り決めなんだけど、この患者さんはそれがなかったのね。家族は20分くらいで到着する予定。私としては、89才まで生きた人の胸なんか揉みたくなかった。静かに看取るだけでよいと思っていたので想定外の展開。でも、揉まざるを得ない。心マしても、しばらくは心拍再開なし。静脈ルート確保して、ナースがエピネフリン二回くらいだったか、投与。すると心拍再開する。そうなると、押せ押せだ。呼吸状態は相変わらず不安定なので、ナースはどんどん挿管の準備を開始。

ここでひとつ確認したいのだが、私は指示をほとんど出していない。ナースがどんどん動いて、私が後ろからつつかれる体制である。私なんて、この修羅場において、ほとんど添え物である。しかし結局、添え物が挿管しなければならない。こればかりは、ナースがやるわけにはいかないから。気がついたら、目の前にビニールの手袋が置かれていた。「先生、お願いしますよ!」てな感じで。私は内心「おいおい、マジかよ~(←出川哲朗風に)」という心境だった。挿管チャレンジの場面が、こんな形で巡ってくるとは夢にも思わなかった。

私は覚悟を決めて、目の前の手袋をはめて喉頭鏡を持つ。何か違和感があったので、裏返して眺めたり、いろいろしていたら、ナースから怪訝そうに睨まれた。苦手意識のある挿管だけど、今の自分にはDVDで独習した実績はあるわけで、その事実だけが心の拠り所だった。喉頭鏡を握って例のイメトレ通り、喉頭展開へ持っていく。痩せた老人なので、比較的簡単なはず。声帯が見えた気がしたので、気管チューブを挿入。しかし、お得意の食道挿管。がっくり。相当にうろたえたが、気を取り直して再トライ。冷静に分析して、喉頭展開が甘いと判断。喉頭鏡をもっと前上方にしっかり持ち上げる感じでやると、はっきりと声帯が確認できた。そうして、二度目のトライは成功。ほっと一息ついた。要するに喉頭展開が甘かったんだね。解剖学的に冷静に考えたら、すぐわかることだ。

この後も血圧降下、家族への病状説明、集中治療棟への転棟、レスピレータの装着など、バタバタ。しかも、救急外来の仕事は途中。でも内心、仄かな達成感はあった。とりあえず今回は、挿管を初めてコントロールして成功できたという喜びを記してみました。ただ、本件は挿管前から「ホントにこれでいいのか?」という、自分なりの問題意識に苛まれていた。次回はそれについて書いてみます。