Both Sides, Now/Joni Mitchell を訳してみた

以前から「Both Sides, Now」といううたが気になっていました。洋楽の歌詞を翻訳するのは、とても好きな作業です。Blogのアクセスをみても、けっこうみなさん、関心があるようです。というわけで、今回はこのうたに入り浸ってみたいと思います。

このうたの邦題は「青春の光と影」です。ジョニ・ミッチェルが作ったうたですが、私が初めて耳にしたのはジュディー・コリンズのカヴァーでした。1986年のテレビドラマ「法医学教室の長い一日」という作品で、ラスト近くにさりげなくBGMとして使われていた。私は当時、K医科大学の一年生ほやほやだった。わが家初のビデオデッキで録画したVHSを、繰り返し観た覚えがある。

いいな~と思いつつ、誰のどんなうたなのか、分からなかった。ずっと、もどかしく思っていた。

それが最近になって、Twitter経由でジョニ・ミッチェルの情報が入り、彼女の「Clouds」というアルバムを取り寄せたところ、このうたが偶然入っていたのだ。そのときの驚き、嬉しさといったら! 長年の謎が解けた、すっきり感というかな。わかんね~だろうな。

さて、現在はネット社会なり。調べる気がありさえすれば、けっこういろいろ分かる。上記の「法医0214学教室の長い一日」の脚本、監督は、大森一樹なんだな。彼もK医科大学のOBであり、映画「ヒポクラテスたち(1980年)」という名作を世に送り出した。個人的な見解ですが、この「ヒポクラテスたち」のテーマは、ずばり「青春の光と影」だったと思うのね。そう考えると、ほぼ間違いなく、この「Both Sides, Now」は大森さんの愛聴曲だったんじゃないかと。

そのようにして、いろんなものが繋がったのでした。すっきりした。さて、以下に訳していきます。すごく長くなりますが、全部のっけます。誤訳をおそれず、自分のオリジナルにこだわり、作業いたします。m(_ _)m

Both Sides, Now/Joni Mitchell



Rows and flows of angel hair

And ice cream castles in the air

And feather canyons everywhere,

I’ve looked at clouds that way.

いくえにも流れる天使の髪

ほんわかとしたアイスクリームのお城

あちこちにそびえる羽毛の峡谷

私は雲をずっとそのようにみていた

But now they only block the sun,

They rain and snow on everyone

So many things I would have done,

But clouds got in my way.

でも今や、雲は陽光をさえぎるだけ

いたるところに雨や雪を降らせる

あれこれしようと、もがいたけど

雲は私のじゃまばかりした

I’ve looked at clouds from both sides now

From up and down and still somehow

It’s cloud’s illusions I recall

I really don’t know clouds at all

結局、雲にはふたつの側面があるのね

上から下から、そしてもっといろいろ

想うの、雲がつくり出すまぼろしのことを

わたしは雲のことを、本当にはわからない

Moons and Junes and Ferris wheels,

The dizzy dancing way that you feel

As every fairy tale comes real,

I’ve looked at love that way.

お月様と六月、観覧車

踊ってときめくことって、あるでしょ?

おとぎ話が本当になるたびに

わたしは恋愛をそんな風にみていた

But now it’s just another show,

You leave ’em laughing when you go

And if you care, don’t let them know,

Don’t give yourself away.

でも今は、そんなの全然ありえない

月だの六月だの観覧車だの

終わりにしよう、嗤いつつ

嗤っているのを気づかれちゃだめよ

「自分をゆだねる」ことに慎重に

I’ve looked at love from both sides now

From give and take and still somehow

It’s love’s illusions I recall

I really don’t know love at all

結局、恋愛ってふたつの側面があるのね

そろばんずくだったり、そうでもなかったり

想うの、恋愛がつくり出すまぼろしのことを

わたしは恋愛のことを、本当にはわからない

Tears and fears and feeling proud,

To say “I love you” right out loud

Dreams and schemes and circus crowds,

I’ve looked at life that way.

わたしは「あなたを愛してる」って、声高に言うわよ

涙や恐怖は付きもの。でもそうすることに誇りを感じるの

夢想とできやしない計画、サーカスを夢うつつに観る群衆

人生なんて、そんなもんよ

Oh but now old friends they’re acting strange,

They shake their heads, they say I’ve changed

Well something’s lost, but something’s gained

In living every day.

ああ、でも旧友が妙なことをしている

頭をふりふり「俺は昔の俺とはちがう」と言う

そう、失ったものもあれば、得たものもある

毎日生きてるうちに

I’ve looked at life from both sides now

From win and lose and still somehow

It’s life’s illusions I recall

I really don’t know life at all

そう、人生にはふたつの側面がある

勝利と敗北、もっと別なものかも

想うの、人生がつくり出すまぼろしのことを

わたしは人生のことを、本当には知らない

I’ve looked at life from both sides now

From up and down, and still somehow

It’s life’s illusions I recall

I really don’t know life at all

そう、人生にはふたつの側面がある

のぼったり落ちたり・・もっとなにか

想うの、人生がつくり出すまぼろしのことを

わたしは人生のことを、本当には知らない

訳し終えて、とても疲れた。それほど本作の歌詞って、解釈が難しい。ジョニ・ミッチェルが、どういう想いでこの詞を書いたのか。特に「Moons and Junes and Ferris wheels」や「Dreams and schemes and circus crowds」なんかの三種盛り合わせが、どうにもわからん。いちおう上記のように訳したけど、真相は藪の中です。ジョニのインタビュー記事なんかがあればいいんだろうけど。六月は花嫁、お月様はハネムーンのこと? いろいろ想像するけど、わからんわ。

要するに、大意としては「恋愛をはじめ、物事には二面性(あるいは多面性)がある」ということね。大人になるということは、そうした「物事の裏側」を知ることだ。雲や恋愛や人生をイリュージョンと捉えるのは、ある意味で正しい。だって確かに、つかみ所がないもんね。つかみ取った!と思ったら、いつの間にかするすると逃げてしまう。このうたは、あるいはジョニがそうした「無力感」を表現したかったんじゃないかしら。そう、生きる上での無力感、むなしさ。恋愛や人生って、まさに「雲」みたいに充実したものではない。だから本作は、どちらかと言えばネガティブなうたなんだと思う。実際には、その空虚な人生や恋愛の「中身をいかに詰めていくか」というプロセスが、生きることの意義だから。本作はジョニが20代半ばのときのもの。「本当には知らない」というのも無理はない。決して無責任じゃなくて、それはまさに実感であり正直な感想なんだと思う。つまりは20代って、そういう年代なんだろうね。以上「Both Sides, Now」を訳してみました。