最近の興味深い症例をふたつ(まるちょう診療録より)

ひとつめ。70代の女性で、整外科よりコンサルトあり。もともと左上腕骨近位端骨折でOP後の方。OP後、骨粗鬆症にて投薬加療されていた。5月11日の採血で、CEA5.5、CRP 2.55あり、内科へ精査目的コンサルトとなる。

胸腹部CTは、明らかな悪性所見なし。整外科の先生は、肺腺癌を心配されていた。しかし、本人さまを診察すると、どうも様子が違う。「とにかく体中が痛い」のだと言う。そのため、長く歩けないし、寝返りが打てないので眠れない。バンザイをしてもらうと、腕が肩レベルまでしか挙がらない。大腿四頭筋の把握痛あり。これはもしかして、あの疾患では?

「あの疾患」とは、リウマチ性多発筋痛症(PMR)。僕は初診で、直感でPMRに間違いないと思った。近位筋がメインの痛み。CRP軽微陽性。痛みの経過としては、一ヶ月くらい。本人さんとしては、一番辛いのは、痛みで眠れないこと。不眠で倦怠感が増幅するという悪循環。

CEA若干高値とかあるので、厳密にはGFや便潜血もすべきだけど、まずは本人さまの苦痛を和らげたい。PMRだとすると、PSL少量投与が著効するはず。整外科の先生に、いちおう許可を得て、PSL10mgから開始。一週後に再診とした。

さてさて一週後、ちょっとワクワク。その70代女性は、薬剤師の勧めで薬局でPSL10mgを服用されていた。そしてその晩、寝返りが打てた! ぐっすりと眠れたそうだ。教科書的には、PMRは少量のPSL投与後、72時間以内に著明な症状改善がみられる。つまり、バッチシというわけ。あとはPSLの減量について慎重になる必要があるが、まずは診断がついてよかった。PMRは初めての体験だったので、貴重な症例でした。

ふたつめ。50代の男性で整外科で関節リウマチ、内科で高血圧をフォローしている。ある日、ふと「腹部エコーと心エコー」を受けたいとおっしゃった。とても温和な方で、口数も少ない。「それじゃ、腹部エコーから予約入れましょか」。その時は、何気なく予約を入れただけだった。

そして腹部エコー当日。技師所見として「胆嚢は部分切除でしょうか? 胆嚢が観察できます。体部に21.9×11.2mmのSoft echoあり、広基性に見えます。また、同じく体部に広基性に局所的な隆起病変もあり。血流は見られませんが、悪性の除外をお願いします」と記載あり。

大いに混乱した。実はこの方、昨年4月に多発胆嚢ポリープで胆嚢を切除していたのだ! でも、エコーではちゃんと胆嚢が映し出されている。オカルトですやん! 現状、悪性っぽいポリープがあるわけで、とりあえずC病院の消化器内科へ紹介とした。

帰りのJR車中で「あれは何だったんだろう?」とiPadでささっと検索してみた。すると「胆嚢摘出後に発生した遺残胆嚢管癌の 1 例」という症例報告の論文にぶち当たった。胆嚢切除後に「胆嚢管」が残る。ここから極めてまれに癌が発生するとのこと。普通はかなり進行してから見つかることが多いが、本例は整外科の先生がALP上昇を見逃さなかったこと、そこから腹部エコーへと繋げれたことがよかった。まだ本当に「胆嚢管癌」かどうかは、確定していませんが、あの広基性のポリープは悪性だろうと考えています。整外科のH先生に感謝いたします。以上、最近の興味深いふたつの症例について書きました。