この症例は寄生虫だったのでは?(まるちょう診療録より)

これって、完全な後出しジャンケンなんですが・・ 三月末に僕が診察した80代半ばの女性。結論から言うと、二週間後にC病院で亡くなります。もともとの主訴は「認知力低下、息子のこともよくわからない」ということでした。二人暮らしなのに、三人いるように見える。ここ数日は歩けない。ベッドから起きれない。尿失禁はなし。ADL車椅子。三月の中旬くらいまでは、簡単な料理ができたと。アルツハイマーにしては経過が速い気がする。とりあえず、頭部CTを撮影。

CTでは、右内包にLDAがあった。脳梗塞から急速に認知力低下がくるケースはある。とりあえず、頭部MRIをC病院にお願いした。しかし、である。上記の右内包のLDAは以前からあるもので、新規の病変ではなかった。QQ外来のDrが、認知力低下やADL低下を「おかしい」と判断されたんだと思う。そのまま精査のため入院となる。

入院してから、意外な問題点が次々と明らかになる。まず、入院時採血で指摘された著明な血小板減少(13000/μl)。入院時の単純胸腹部CTにて「多発肝のう胞(一部石灰化あり)」を指摘。続いて行われた胃カメラにて、著明な食道静脈瘤(LsF1-2CbRC0)を指摘。胃内は点状発赤を認め、門脈圧亢進性胃症との診断。


詳細な項目にわたる採血検査が実施された。抜粋するとしても膨大な量になるので、重要そうなものだけだけ転記。
Hb7.2、PLT13000、PT-INR1.48、APTT39.9、CRP2.88、GOT35、GPT10、LDH229、T-Bil1.6、D-Bil0.6、フェリチン251、ANA160倍、補体C3,C4,CH50全て著明に低下、PAIgG9100↑、IgG4617、抗ミトコンドリアM2抗体265(陽性)、IgA227、IgM175、IgG4060(κ/λ比 1.42)、抗ミトコンドリア抗体80、抗SS-A/R0抗体370、抗SS-B/La抗体1.0未満、HBsAg -、HCVAb –

総合すると、ベースに肝不全はありそう。プラス、種々の免疫系の乱れ。いちばん著明なのがPA IgGで、血小板減少の一因となっている可能性は高い。そして、抗ミトコンドリア抗体陽性であること。現時点でいちばん心配なのは、出血傾向。血小板減少、血液凝固障害、そして食道静脈瘤の存在。

入院後、二週後くらいに吐血あり。BP80-90台。緊急胃カメラにて静脈瘤からの噴出性の出血を確認。EVL施行して止血。超高齢であり、本人様も常々、延命治療を嫌がっておられた。家族との話し合いの上で、挿管はせず。翌日に永眠された。

いちおうカルテ上は「SLE、原発性胆汁性肝硬変(PBC)の疑い」とある。ただ、そうすると合わない所も多々ある。本症例の中核となる臓器は肝臓であり、SLEはどうか。また、PBCとしても、一番マーカーとなりやすいALPやγGTPが全くの正常値だったことが合わない。つまり「何が起こっていたのか?」ということについて、謎が多すぎるのです。

僕はほぼ部外者であり、こんな考察を述べる資格はないのですが、まあ、個人的なBlogという場でもあるし、あくまでも「可能性の話」として記しておきます。・・エキノコックスという寄生虫だったのでは?という説です。

【エキノコックス(厚労省のページより引用)】
<病原体>
エキノコックス(Echinococcus)による感染症で、単包条虫(Echinococcus granulosus )と多包条虫(Echinococcus multilocularis )の2種類がある。
<感染経路>
キツネやイヌなどから排泄された虫卵に汚染された水、食物、埃などを経口的に摂取した時に起こる。
<診断と治療>
(1) 臨床症状:
体内に発生した嚢胞は緩慢に増大し、周囲の臓器を圧迫する。多包虫病巣の拡大は極めてゆっくりで、肝臓の腫大、腹痛、黄疸、貧血、発熱や腹水貯留などの初期症状が現れるまで、成人では通常10年以上を要する。放置すると約半年で腹水が貯留し、やがて死に至る。
発症前や早期の無症状期でも、スクリーニング検査の超音波、CT、MRIの所見から検知される場合がある。
(2) 診断:肝臓の摘出組織や生検組織から包虫あるいは包虫の一部の検出、血清から抗体の検出
(3) 治療: 外科的切除が唯一の根治的治療法


もし、問診を追加できるとしたら。犬を飼っていたかどうか。そして、エキノコックスの血清学的検査ができていたら? あと、最初の訴え「認知力低下、ADL低下」は、肝不全に伴う高アンモニア血症があったのでは?(つまり、意識障害)

でもでも、、 これらはすべて、後出しジャンケンなんです。C病院のスタッフは、誠意をもって、この80代女性の診療をされた。吐血をした時などは、大変な騒ぎだっただろう。そして、患者さんは超高齢で、ずっと以前からDNARをかかりつけ医に希望されていた。そういう背景の患者さんを、後からほじくるのは断じてよろしくない。中途半端な感じになり、すんません。ちょっと気になったので、Blogに書き留めておきます。