認知症の方の熱発はむずかしい!(まるちょう診療録より)

このご時世、熱発といえばコロナ除外を避けて通れない。しかも患者さんが認知症だったりすると、情報量が少なくなるので、迷路に入ってしまうことがある。今回は、偶然だけど真相に迫れた症例です。

80代後半の女性で、主訴は熱発。老健施設入所中で、アルツハイマー型認知症を背景に持っておられる。ADLは車椅子。断続的に37ー38度の熱がつづく。他のバイタルサインは正常で、特記すべき局所症状はなし。混濁尿もなし。三日ほど抗菌剤投与もしてみたが、解熱しない。採血したところ、CRP10台と強陽性。気道感染症および尿路感染症の疑いにて、当科へコンサルトとなる。

言い訳になるけど、この日も外来は大混雑。老健施設長さんからの紹介状を斜め読みで、事前検査として胸部CTと尿検査をオーダー。しかし、採尿はできず。本人さまと対面するも、どこも痛いことないし、咳や息苦しさもない。認知症が進んでいるので、すべからく「鈍い」。たのみの綱は胸部CT画像のみ、という塩梅である。ちなみに、PCR検査は拒否。

この患者さんを診たのが、昼前。この後も、数人患者さんが控えている。限られた時間で、ある程度の判断を出さなくてはいけない。くだんの胸部CT画像は、コロナの典型像からは外れると思った。胸膜とリンクしない間質影が目立つ。間質影については、過去の胸部レ線をチェックしたが、以前からあるようだ。


発熱の原因については、どこにも到達していない。ただ、コロナの可能性は低いので、本日はいったん施設に戻って現在の治療を続行で。なにか変化あれば、再診とした。・・まさに「お茶を濁す」だけの診療である。でも、どこかで落とし所を作らないと、次の患者さんが延々待たされるはめになる。とりあえず、CTの正式所見(放射線科Drが作成)を待つことにした。そうしていったん、この患者さんは記憶の外へ。

それから四日後、外来開始前に小さなメモを看護師から渡された。いわく「放射線科より連絡ありました」と。その日は火曜日だったが、またもや外来は混雑していて、そのメモに目を通すのが、ようやく昼前とか。CTの正式所見には「右水腎症あり。尿管腫瘍など閉塞病変の評価をしてください」とあった。僕はあくまでも「胸部CT」をオーダーしたのだが、技師さんの判断で撮影範囲が拡げられることがある。「多忙と疲労」という言い訳のもと、僕はそれを見逃していた。

さっそく老健の方へ電話してみる。すると、その患者さんはすでにC病院を受診されていた。「とりあえず、任せておくか」と、安堵した。C病院救急科では、腹部CTが撮影され、大きな右尿管結石(17mm)と右水腎症が描出されていた。右の尿管が閉塞したことによる、腎盂腎炎。とにかく尿管腫瘍でなくてよかった。

あとは泌尿器科へ渡されて、尿管ステント留置術施行。局所麻酔で20分程度の処置らしい。あとは腎盂腎炎のコントロールができたら、経尿道的尿管結石破砕術(TUL)の予定。めでたし、めでたし。この患者さんは、両変形性膝関節症のため、カロナール一日600mgを内服されていた。痛みや熱がかなりマスクされていたと思われる。認知症もあるけど、カロナール常用のために、あるべき症状が無くなる、あるいは減じるという現象が起こった。放射線科技師さんの機転で診断までたどり着いた本件。尿管腫瘍ならば、そのまま緩和となっていた可能性もあり、まずまずのハッピーエンドかなと思います。以上、日常診療の中で記憶に残る症例を文章にしてみました。