下痢と血便で始まった迷走・・結局なに?(まるちょう診療録より)

50代女性で主訴は四日前からつづく下痢。水様便で腹痛あり。しぶり便っぽい。夜中も下痢あり。五日前に刺身食べた。もともとは便秘症。今はカマグ止めている。熱はなし。診察では、腹部NP。ウイルス性胃腸炎にしては、やや経過が長いと思った。胃部症状もない。大腸菌感染など念頭において、エンピリックにLVFX500と整腸剤を出しておく。連休前の金曜日で、外来はごった返していた。丁寧にやるなら、採血とか便培養とかだけど、患者さんは「ざっくりした診療」を望まれていた。ま、熱もなかったし、それほどの重症感もなかったわけ。治らなければ、再診で。

ほぼ二週間後、その女性は再診された。やはり下痢が止まらない。腹痛もあり。薬のんでいる間はマシだったと。薬が切れてから、また元に戻ったと。ここに来て「これはちょっと本腰を入れなければ」となる。以前のカルテを調べると、やや意外な事実が判明。喫煙歴はなし。しかし、高血圧治療中で、降圧剤三種のんでいる。そして大動脈解離という大病をされて、循環器内科に通院されていた。性格的には、気さくで明るい感じの女性だけど、日常の中でわりとストレスは感じてはるんかな~と思った。

さて、女性は便を持参していた。さっそく便潜血にまわすと、二回とも強陽性。ここでうーんとなる。20日ほどつづく下痢と腹痛、そして便潜血陽性。動脈硬化を想起させる既往。まず虚血性腸炎、あるいは大腸癌も除外すべき? とりあえず、大腸カメラしましょう、ということで合意に至る。そして、その時点はでは、LVFX投与が効果なかったので「腸管感染症の可能性」は、頭から消し飛んでいた。


さて、三日後にC病院で大腸カメラ。報告書にはこう記されていた。

潰瘍性大腸炎(全結腸型)疑い。全文は長すぎるので割愛。検査実施医は、直腸から連続性のある病変と捉えていた。しかし、である。生検を三箇所からしていたが、そのどれもが非特異的炎症を示唆するものだった。盲腸の生検は好中球が多かったかな。潰瘍性大腸炎を積極的に支持する所見はなし。この症例じゃないけど、Webから拾ってきたやつを載っけておきます。ご参考までに。

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さらに四日後、正式な返書が送られてきた。C病院消化器内科トップのK先生より。ずばり「感染性腸炎の疑い」と訂正されていた。そして、整腸剤をしっかり投与し、1-2ヶ月後にCFを再検して下さいと記載されていた。僕は混乱した。だって、LVFXすでに十分投与しているし、今更「感染性」ですか?

それから12日後、患者さん再診。整腸剤を飲んでいたら、わりとましという。僕は「感染性」という説が腑に落ちなかったので、あれこれ質問。わりと前から五十肩でセレコックスを飲んでいると。胃薬は投与されていたが、これはセレコックスによる腸障害じゃないか? などとお茶を濁した。整腸剤は効いているようなので、たっぷりと処方。6月ごろにCFしましょう、という話となる。ちなみに、セレコックスは止め。

さてさて、真実が解ったのはそれからです。五月の内科症例検討会でこの症例を呈示した。すると、消化器科のI先生がずばり指摘された。いわく「これは感染症です。LVFXが効かなかったところをみると、カンピロバクターの可能性が高いです」と。確かにCFのいちばん核心となる所見は、回盲部から上行結腸にいたる「白苔のようにみえる病変」である。I先生は、それは膿だと指摘された。確かに組織所見は好中球が多いのである。僕の不勉強だけど、カンピロバクターは今やLVFXはほとんど効かないそうだ。治療の基本は、整腸剤をしっかり投与すること。重症例はCAMなどマクロライド。感染性腸炎といえば、お約束のようにLVFXをだしている自分がイヤになった。勉強せんとあかんなーf(^^;) 患者さんは、おそらく鶏肉や牛肉経由で感染した可能性あり。六月再診のときに、しっかり説明しようと思う。でも、CF再検はなんとかしてもらいたいけど。 以上、「下痢と血便で始まった迷走」と題して文章こさえました。