近況・・父の脳出血とせん妄、そして外傷性気胸

僕の父親は今年の5月で90歳になる。大きな持病はない。血圧がやや高いくらい。しかし最近は「この歳まで生きるのはしんどい。ほんましんどい」と漏らしていた。医師としての立場から客観的にいうと、認知機能はそこそこ落ちてきている。母の方が頭はしっかりしている(母は足腰がダメなのだが)。元来、辛抱強い人である。カローラをこよなく愛し、二年前に免許は返納した。そんな父のことを、僕は最大限リスペクトしている。

さる4月6日の午後、僕は心電図の読影をしていた。いきなり母から電話。読影のまっただなかだったので、電話に出れない。読影室をでて、人気のないところでコールバック。しかし、母の携帯は留守電になっている。また読影に戻る。10分くらいして、また母から電話。今度はちゃんと出ることができた。いわく「お父さんが自転車でこけて、額を打って血だらけになって、K病院へ運ばれた。頭のCTを撮ったが、血が溜まっているそうや」


すでに搬送はされている。とりあえず目の前の仕事を片付けよう。その日の心電図は620枚。サクサクっと仕上げて、円町でタクシーをつかまえる。ひさびさのK病院である。A病棟の食堂で母と兄が待っていた。かなり待たされて、ようやく脳外科の主治医による病状説明。そこで今回のエピソードの「真実」をみた。頭部CTにおいて、右後頭葉にハイなSOLあり。脳出血である。これは確か、同名半盲になるのでは? はるか昔の解剖学の知識。

おそらく、その日の起床時に脳出血は起こっていた。朝、母に「目がおかしい」と訴えたそうだ。一般人に同名半盲は理解できないだろう。近所の眼科へ自転車でいく。そこで「これは精密検査が必要だから、10日後にまた来てください」と言われた。視野が明らかにおかしかったのだ。その帰り道で自転車が倒れて額を強打、血だらけとなりK病院へ搬送となる。「自転車に乗るのがバカ」という誹りは、もうすぐ90歳になる一般人の父にとっては厳しすぎると思う。

その日は本人には会えず。例のコロナ感染拡大防止のため。翌日は午前に外来があるだけ。なんとかこなして昼寝。そして夕食時、和風ハンバーグをつまんだその時に、母から電話がかかってきた。「お父さんがトイレに行こうとして転んで、肋骨を折って肺に穴が空いたって!すぐ来て」 えらいこっちゃ!とハンバーグもそこそこに支度する。JR栗東駅のホームに立ち、さあ電車に乗ろうという瞬間に、兄から電話あり。いわく「気胸については俺が行くから、大丈夫」と。頼りになる兄貴である。結局、母と兄が病院に向かった。

あらためて全身のCTと胸腔にドレーンカテが挿入された。そして母と兄が目の当たりにしたのは、人格がまったく変化した父の姿だった。口汚い暴言を吐き、誰が誰かも識別できない。絶えず四肢はうごき、点滴や ドレーンカテを抜去しようとする。経鼻酸素も外す。こうした状況を見て、母と兄は「認知症の底へ落っこちた」ように感じたようだ。これを電話で聞いて、僕は「せん妄」だと確信した。でもそういった知識がない一般人には、この無慈悲な人格変化は「恐怖」であり「絶望」に他ならない。その晩、兄が泊まることになった。僕の「せん妄かもしれない」という言葉を頼りに、兄はスマホで調べて、頭の整理をしたようだ。

翌日朝、兄と交代で父の面倒をみる。せん妄の本質は「意識障害」である。その日も意識がクリアになったかと思えば、寝ぼけた様になる、そして寝る。せん妄もまだらになりやすいのだと思う。K病院の対応はしっかりしていたと思う。脳外科から呼吸器外科、精神科への連携など。外傷性気胸については、12日に胸腔鏡を用いた手術を実施。若い先生だったけど、非常に短時間で完了された。ここで怖いのが「術後せん妄」。なんたって全身麻酔なのである。だから、その日は泊まりを覚悟していたのだが、意外にも「医師と看護師で管理します」と。

翌日も観察室から出るのを延々と待つのみ。約5時間待ちに待って、父に会うことができた。若干の意識の混濁はあるけど、いわゆる「せん妄」は認めない。呼吸器外科の先生の尽力のおかげで、二本のドレーンカテはすでに抜去されていた。あとは点滴と酸素の管のみ。看護師からは、家族は帰宅との指示がでた。翌日以降も、家族の付き添いは原則不要とのお達し。僕は結局、11日、12日、13日の日勤帯に病院にいたんだけど、それだけで目の眩むような疲労を抱え込んでしまった。14日は自分の体じゃないような感覚で、夕方はずっと寝ていた。15日は散髪行ったりとか、わりと戻ったか。介護って、ほんまきついですね~

今回のことで、兄には感謝している。実は兄と父はあまり仲がよくないのだけど、やはりここというときには、頼りになる兄貴です。せん妄が出現してから、四日連続で準夜~深夜帯を受け持ってくれた。あ、それからA病棟の看護師さんも、てきぱき仕事してくれて、感じがよかった。本日の状況としては、父は食事はほぼ全量摂取、点滴は外れて、酸素は1リットル、歩行器で100m歩けるそうだ。同名半盲になんとか慣れてほしい。見通しがついたので、文章化してみました。やや散漫ですが、すんません。