近況をふたつ

ひとつめ。ある日の朝、出勤前にルーチンでヨーガをしていた。テレビはNHKのおはよう日本である。これはなんでつけているかというと、主に時刻を確認するためである。放送の内容なんて、ほとんど見ていない。だって、出勤前のせわしないときに、テレビなんてじっと見ていられないから。

そんなとき、医学系の5分くらいの映像が目に入ってきた。なんでも40代で末期がんになってしまったホスピスDrがいるらしい。僕は思わず目を奪われ、食卓のそばに立ち尽くしていた。40代で末期?なんなんその若さ。そのホスピスDrは、しっかりと顔出しで毅然と視聴者に訴えかけていた。

出勤前のバタバタした時間帯に、こんなにボーッと立ちつくすのは珍しい。ふと気がつくと、嫁が後ろに立っていて、僕に本を渡した。「がんになった緩和ケア医が語る『残り2年』の生き方、考え方/関本剛」という本である。そう、そのホスピスDrが関本先生なのである。この電撃的な以心伝心は、寝ぼけた脳を叩き起こした。この嫁、やはりただものではない。


うちの嫁さんは、普段からがん医療の情報を集めるのが好きです。もうこれは、趣味と言ってもいいくらい。僕が肉腫になってからは、そっち方面の情報も盤石である。僕自身は、まるで他人事のようにしていますが・・f(^^;) 「そんなん再発してからでええやん~」とか、医師としてすみませんm(_ _)m

ちゅーわけで、現在JRの中で上記の本を読んでいます。関本先生、9歳と5歳の子供さんがいる。いやー、なんという苛酷な運命よ。4年前、僕も発見が遅れたら、同じような状況になったかもしれない。というか、そういう類似性を見抜いて、嫁さんはいち早くこの書物を取り寄せたのだろう。襟を正して、読み進めたいと思う次第です。

ふたつめ。まるちょう診療録より。12月のある日、外来が終わって書類の整理をしていると、看護師が飛び込んできた。いわく「整外科の患者さんが急変です!」と。僕はQQはそれほど得意ではないが、わりと好きではある。主に「謎解きのプロセス」が僕を惹きつける。患者さんは80代後半の女性で、主な症状は、気分不良、尿失禁、顔面の発汗。意識レベルもやや落ちているか。そうそう、血圧も上が80代。頻脈はない。診察では、右下肢にやや脱力があるように感じた。

とりあえず、脳卒中と心筋梗塞は除外したい。ECGと頭部CTをオーダー。ECGはペースメーカーリズム。STの変化はまったくわからない。頭部CTはNP。そうして、うーんとなってしまった。しっかり診るならば、C病院へ転送ということになるが・・ すでに時間外であり、そこまで「しつこく」やるべきかどうか。もういちど、そのおばあさんに話を聞く。先ほどよりは、かなり顔に生気がある。血圧も回復。あれれ?

結局、いったん帰宅可とした。ちょっと不安はあったが、看護師とも話し合って、そういう結論に達した。やっぱ、尿失禁がレッドフラグじゃないかと、とても心配していた。二日後、娘さんに電話したところ、こっちの心配が的外れのような穏やかな調子で「大丈夫と思います」と返答された。

尿失禁は、大血管の疾患など(例えば大動脈解離とか)が心配だけど、あのお婆さんは痛みは訴えていなかった。調べてみると、一部のてんかんで尿失禁はありうるようだ。もし器質的な病変がない場合、てんかんも鑑別に挙がるかもしれない。臨床をしていると、こういう「グレーでもしょうがないか」という症例は、わりと経験します。90歳近くのおばあさんを、こてこてに検査するのもどうかと。家族も望んでないんだし。ま、そんな感じです。ふたつ近況を語りました。