最近、ややクリティカルな症例をふたつ経験したので、Blogに記しておきます。T診療所を受診されて、ある程度の診断をして「うちでは対応できない」と、C病院へ転送して、真相が解ったときに「ええ? マジ? びっくりしたなぁ~」となった症例です。
ひとつめ。20代の男性で、昨日昼から38度台の熱あり、ロキソニン内服。右の扁桃腺が腫れている感じあり。夜に何度も嘔吐した。今朝も嘔吐あり。水分は少しずつ摂れる。咳少し、痰がたくさん出る。来院時の体温は37.4℃、脈拍98。咽頭部は右扁桃が腫大、発赤、白苔あり。発声がしにくいが、息はできる。重症感がありありだったので、慎重に診察。すると右の頚部に発赤と腫脹あり、圧痛が著明。「イタッ」という感じ。
第一印象で、これはうちでは手に負えないと思った。右扁桃炎は確かにあるけど、これは喉頭部に炎症が波及しているしている可能性あり。具体的には膿瘍形成など心配した。ささっと紹介状を書いて、C病院耳鼻咽喉科へ急行していただく。
その日の外来は、普通ぐらいの忙しさ。外来が終了して「ああ、あの人どうなったかな?」と、C病院のカルテをチェックしてみる。そして腰を抜かしてしまった。造影CTにて扁桃周囲膿瘍は指摘されていた。しかし、もっと別なクリティカルな状況があった。それは急性喉頭蓋炎。喉頭蓋が赤く腫大して、気道をほぼほぼ塞ごうとしていた。最悪、窒息で死亡もありうる疾患である。(参考までに、Webから拾ってきた画像をのっけておきます。上から解剖図、正常、急性喉頭蓋炎)
C病院耳鼻咽喉科のS先生には、大変なスルーパスを出してしまった。すんません。耳鼻咽喉科の仕事だとはいえ、あの日は生きた心地がしなかっただろう。いきなり気管切開(気切)はせず、まずは抗菌剤とステロイドの点滴。数時間後に喉頭ファイバーを実施して、改善していないようなら気切という方針らしい。なにしろクリティカルな疾患なもんで。カルテ記載もままならないようだ。現場の「バタバタ感」がよくわかる。カルテを見ながら「すんません、S先生」と呟いていた。
結局、気切はせず保存的に(抗菌剤とステロイドの点滴)経過を見ることになった。本人様と母親が、気切でのどに傷跡がつくのが抵抗感あったみたい。やっぱ20代だもんね。でも、S先生もその日はギリギリの判断だったと想像する。まさに地獄のようなムンテラだったろうな。S先生(あるいは医療側)としては、気切した方がだんぜん管理しやすいし、ずっと安全だし。しかし先生は、ぐっとこらえて患者側の希望に沿う判断をされた。たいしたもんだと思う。
やはり若いと回復力はすごいものがある。入院9日目で症状はほぼ消失。喉頭蓋の腫大もかなり軽減し、めでたく退院となる。これはまったく想像ですが、本人様の日頃の口腔内環境がどうだったか? 喫煙や歯磨きなど、ドタバタで聴けてないけど、関心があるところです。とりあえず、ひとつめは終わり。ふたつめは、ちょっと待ってね。( ̄▽ ̄;)
最初の数行でEpiglottitisを疑うのが耳鼻科では常識、というより、
それが一番クリティカルだから除外しておかねばならぬものでございます。
内科の先生はEpiglottisを見ることがほとんどないだろうけど、
耳鼻科では医療紛争によく出てくるので、知らない医者はいませんわ。
> カバ先生
声が出にくい というのは、
要注意なサインなんでしょうね。息はできる、というので、
ちょっと油断してしまった。
急性喉頭蓋炎に遭遇するのは、初めてです。
大変勉強になりましたf(^^;)
医療紛争ー(´Д` ) くわばらくわばら
「声が出にくい」というのはちょっと表現が不十分なんですよね・・・。
Akute Epiglottitisの場合は、「声枯れ」ではなく、「声がこもったような感じになる」のです。
ピンポン玉をのどの中に入れたような声です。
それと、大きな所見としては嚥下困難と呼吸困難です。
特に呼吸困難が来ていると、緊急気管切開が必要である場合があること、
その時に慌てて挿管しようとすると、窒息して死んでしまう可能性があること、
それさえわかっていれば「助けを呼ばないといけない疾患」であることは自明でしょう。
「息はできる」と言われたら私なら、「呼吸困難感も全くないのですか?」と聞くでしょう。
もうひとつ、本当にAkute Epiglottitisのみで他に問題がないかどうかもよく考えないといけませんね。
まぁめったにありませんけど、下咽頭がんがホンマにないか、などは一旦治ってからもう一度見ないといけないと思います。
> カバ先生
すべておっしゃる通りです。
さすが専門診療科。恐れ入ります。
こもったような声でした。
小さな声。大きく発声できない感じですね。
でも喉頭蓋炎なんて、内科外来で想像してないですよ。
扁桃周囲膿瘍は想像できても。
いい経験にはなりました。
訴訟沙汰は、怖いっす。((((;゚Д゚)))))))