生来健康のつもりが・・残念。。(まるちょう診療録より)

40代男性、調理師。性格は生真面目で、飲食店を10年くらい営んでおられる。すごい巨漢で、170cmの132kg。病院はほとんどかかったことなし。もちろん健診も受けたことなし。よく食べて、よく調理する。こういうタイプ、いるよねー ただ、この人の場合は、やっかいな「悪魔」がいつの間にか棲みついていたわけ。そうして本人も、その「忌避すべき住人」に気がつかなかった。怖いことです。

主訴は数日前からの息切れと発熱。夕方になると足がむくむ。仕事はだいたい立ち仕事なんだけど。もちろん初診で、午前診終了直前に受診された。昼前くらいだったか、M看護師が「えらいの来ましたよ」みたいな雰囲気で診察室に入ってきた。予診とか計測値とかで「これはかなり大変そう」という印象を持った。血圧 177/109、体温 38.5℃、脈拍 121 整。もう12時やけど腰入れて行こう、と気を引きしめた。


診察は、胸部聴診で全肺野に湿性ラ音、下腿に圧痕性浮腫あり。ECG 洞性頻脈、HR129、ST低下散見。レ線 心拡大著明、両中下肺野中心に網状影あり。尿 糖と蛋白が強陽性。採血 HbA1c11.2、BS263、BNP719、CRP9.0。以上より、心不全に肺炎合併、糖尿病(腎症あり)、高血圧症と診断した。

これはどう見ても入院である。しかし本人さんは、初め難色を示された。店に仕込んである料理が心配と、ずっと気にしておられた。真面目なのである。息がぜーぜーいう症状はこれまでにもあり、本人様は「喘息」だと思っていた。今回は熱はあるけど、その延長だと。そうじゃないんです、本当に悪いのは肺じゃなくて心臓なんです、と時間をかけて説明した。この状態では入院以外にありません。なんとか了解を得た。ふー

私は、高血圧がらみの心不全→肺炎なのかな?と、ぼんやり考えていた。ただ、急性心筋梗塞ではなさそう。胸部症状がなく、心電図変化も合わない。むしろ慢性心不全の急性増悪を想起させた。そう、心臓にすでになんらかの「器質的な一撃」が入っているやつ。C病院に入院となったが、救急室のY先生は「DCM疑い、IHD除外」とカルテ記載されていた。DCMは「拡張型心筋症」の略。IHDは「虚血性心疾患」の略。C病院で実施された心エコーは、確かにDCMっぽい感じ。これは俗に「心臓のガン」とも言われる疾患で、究極的には心移植しか根治療法はない。うーん、DCMねー 確かにそうかも・・

この仮説は後日行われた心臓カテーテル検査で、覆された。結果は、左前下行枝の#6が99%狭窄、#7が75%、#9は100%! 右は#2が75%、#3が50%、#4PLが100%! ざっくり言うと、糖尿病によって、冠動脈はボロボロになっていたのです。右と左の末梢の閉塞は、過去に小さな心筋梗塞を起こしている証左。ぜーぜー言ったというエピソードは、そのときの心臓喘息だったと思われる。そして大問題は#6の99%狭窄。これが閉塞すると、かなりまずい。後日、この#6に対してインターベンションが行われたようだが、かなり大変だったみたい。たぶん、主治医はバイパス手術も含めて考えておられると思う。

この症例は結局、かなり以前からの糖尿病(忌避すべき住人)→ミニマルな心筋梗塞(IHD)→疑似DCM という症例でした。本人様は、がんらいが生真面目な人なので、今は自分を蝕んできた病魔と真剣に闘っておられます。まだ40代、まだまだ人生は長い。あきらめずに頑張って欲しいと思います。