外科じゃなくてウロか!(まるちょう診療録より)

前回の「まるちょう診療録」Blogが意外に好評だったみたいなので、図に乗ってもう一題やってみます。還暦近い女性で、近医泌尿器科からの紹介。主訴は左下腹部痛と左水腎症。実はその五日前にC病院の救急を受診されていて、採血でCRP(炎症反応)陰性を確認。痛み止めで、一時的に痛みはマシになると。それでいったん帰宅となっていた。つまり当院は三カ所目の受診ということになります。ややこんがらがった症例ですが、泌尿器科から当院へ紹介した理由としては「腹部の圧痛がひどい」「反跳痛まである」ということです。つまり、腹膜炎を念頭に、消化器の病気(腸に穴があくとか)を心配されていたのね。

紹介状を読んで「えらい大変そうな患者さんやな~」と呻いていた。さて、本人様を診察室に呼んでみよう。その女性は、とても辛抱強い人だった。初めは普通に入ってこられたので分からなかったが、診察するにつれ、左下腹部の痛みが相当にひどいものだと了解した。38℃台の熱もでたと。腰部CVA叩打痛は左著明。見逃してはいけない所見として、ベッド移動のとき、左足が挙がりにくかった。そして腹部所見は、左下腹部圧痛著明、反跳痛あり。これをどう考えるか? でも第一には尿路結石+尿路感染を考えたい。ソセゴンを筋注したが、まったく効かなかった。検査としては、採血、尿、腹部CT。おそらくCTで片がつくと踏んだ。


尿は、膿尿なし、血尿なし。採血はCRP 13.5と著明陽性。白血球は正常値。そしてCT。これみて腰抜かしたぜよ。左尿管に結石が嵌頓。左水腎症。左腎周囲と腸腰筋付近に脂肪織上昇、液体貯留を認める。これ~、尿管が破けた感じか? こんなん初めて見たぜよ~「マジか~」とつぶやいていた。腹部の反跳痛(腹膜炎の所見)は、これが原因だったんだ! 後腹膜(壁側腹膜)の炎症が、それを反映していたんだ。そして左足の挙げにくさは、腸腰筋付近の炎症が原因だったと考える。

私はこの時点で、てっきり「液体貯留」を「膿瘍」と解していた。これは外科コンサルトでしょう~、とばかりにC病院外科救急番の先生に電話。この外科の先生がとても冷静で、熟考された後「これは泌尿器科の医師に相談するべきだと思います。現在T診療所(当院)に泌尿器科のM先生がおられます」とのこと。あとで分かったのだが「液体貯留」は「膿瘍」ではなく、尿管からリークした尿(溢尿という)だったのだ。CRPが二桁あったので、私は半信半疑だったのだが、外科の先生がそう言うのなら・・とM先生に患者さんを渡した。

ベテラン泌尿器科医のM先生は、慌てず騒がず、ごくごく冷静にこの案件をさばかれた。餅は餅屋ということか。たぶん同様の症例を何度もこなしておられるのだろう。私のかいた冷や汗が、馬鹿みたい。M先生は緊急処置として、経尿道的に尿管にステントを留置された。私はてっきり開腹手術が必要とばかり思っていたので、拍子抜け。でも、それで日に日に状態はよくなっていった(もちろん抗菌剤点滴も実施)。

そうして尿路感染と溢尿が十分にコントロールできた時点で、経尿道的結石破砕術を実施。レーザーで破砕したようです。こうして泌尿器科の活躍で、本件は解決したのでした。なお、やや余談ですが、初診のC病院救急で尿路結石嵌頓をイメージして(そのときも血尿はなかった)腹部CTを撮っておれば、もう少し患者さんの負担は軽かったかなと思うのです。まあ、夜間とかだと難しいのかな? 以上、まるちょう診療録第二弾を書いてみました。