患者さんは60代の女性。ご主人と一緒に受診。主訴は「数日前からの右腹~背中にかけての痛み、違和感」。大きく息を吸ったり、寝返りすると痛い。咳はなし。本人様としては、腎臓が心配とのこと。右頚部痛もあった。特に持病はなし。
まず第一感は肋間神経痛。ただ、それを納得していただくために画像を撮ることが多い。この方の場合、範囲が胸部から上腹部に及んでいたので、CTを選択。範囲は「胸部~上腹部」である。このご夫婦はかなり慎重派で、採血も希望された。
私の頭の中には「まあ肋間神経痛で間違いない」という固定観念が、すでに居座っている。患者さんにCT画像を説明する。胸部はNP。上腹部も肝臓や腎臓、胆嚢など、NPと判断した。そうして採血の結果。肋間神経痛ならば、全てNPのはず。しかし、この患者さんの場合、CRP(炎症反応)がわずかに陽性とでた。ここで「ん?」となる。いわゆる霊感ですな。なにか器質的なにおいがした。このまま退室していただくと、後悔が残る。
「右腹から背中にかけての違和感は、肋間神経痛でいいと思います。ただ、採血結果が腑に落ちない。どこか他に痛いところはないですか?」と質問した。すると「胃の辺りとか、ちょっと違和感があるような・・」との返答。念のため、胃カメラと便潜血を追加。20日後くらいに再診とした。
さて翌日、外来業務をこなしていると、放射線技師さんから電話連絡あり。例の60代の女性のカルテを開くように言われ、CTの所見で「上行結腸癌+リンパ節転移+多発肝転移」となっていた。そりゃもう「ええ~!」ですわ。外来終了後、本人様へ連絡。二日後に再診していただき、大腸ファイバー検査を予約。胃カメラはキャンセル。その段階では、もちろん告知はせず。
大腸ファイバー結果は、CT所見その通り。ただ、この症例はすでに肝転移(かなり広範囲)を起こしており、残念な結果となってしまった。カルテをみた限りでは、どうもホスピス系の病院へ転医されるようだ。初診医として、ちょっとやるせない想いです。
さて、本症例のポイントは、放射線科技師さんが上腹部CTを観察して肝臓の影を鋭敏に読み取り、とっさに胃腸系の撮影(下腹部含めて)を行ったこと。そうして上行結腸下部に癌を見つけた。これは医師の指示を逸脱する行為であり、それなりに勇気が要ったのでは?と想像する。相当にCTの読影に習熟してないと、こうは行かない。まあ、もちろん放射線科技師さんだから専門なんだけど。私は肝臓の影については、完全に見落としてしまった。後日、Y医師に「先生、ここに影ありますよ!」と、当然のように肝転移を指摘された。私のCT読影能力は、まだまだ拙い、勉強不足だと感じた次第です。完全に弁解ですけど、CTをスルーしたとしても「保証としての」便潜血で、結腸癌は指摘できていたと考えています。あ~あ言い訳、勉強しよ。