同棲時代’83・・「女ともだち」より

久々に「漫画でBlog」やってみたい。ネタとなる短編漫画が少なくなってきています。柴門ふみさんの「女ともだち」をざーっと見ていたら、いいのが残っていました。「同棲時代’83」という作品です。柴門さんはなんといっても「決め科白」がポイントなんですが、本作はばっちりキメてくれています。まずはあらすじから。

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オサムとさっちゃんは同棲している。オサムはギタリストで前途有望な音楽家。さっちゃんはイラストレーター。といっても、通信添削教材のカット描きが主たる仕事。オサムは美男子ではないし、体型的にもオッサンな感じ。でもおおらかで包容力がある。ずばり、さっちゃんと結婚してもいいと思っている。一方、さっちゃんの方は、やや複雑である。高校時代の失恋の話まで遡ってしまう。

11さっちゃんは高校時代にたった一度だけ、ラブレターを手渡したことがあった。文化祭で「神田川」を弾き語りしていた中津原くん。若かりし彼は、さっちゃんのラブレターをクソミソにけなした。「あの女イモじゃん」みたいな。彼女はその傷ついた恋を、まだ引きずっていた。彼女はとにかく、ミュージシャンとイラストレーターの同棲に憧れていた。板張りの床とブラインドの窓! それこそが傷ついた高校時代を「見返す」手段なのだった。


ある夜に、オサムが中津原くんを家に連れてくる。今や中津原くんもレコード会社の営業マンであ24る。さっちゃんは仮病を使って部屋にこもってしまう。オサムと中津原くんが酒を呑みながら語り合う。中津原くんはもうしっかり大人である。オサムのギターの腕前や作曲の実力を、しっかり認めて尊敬もしている。そんな会話を聞いて、さっちゃんは満足だった。中津原くん、ザマアミロ。でもその場に出ていく勇気はない。

今更だけど、中津原くんはハンサムなのだ。「きみまだ独身?もう29だろ。もてるだろ、ハンサムだし・・」とオサムに振られて、謙遜する中津原くん。またお邪魔しにきます、と去って行く中津原く46ん。さっちゃんは「会う」なんて冗談じゃないけど、やっぱり会ってみたい。でもオサムに高校時代のことがバレたら・・

翌朝、オサムいわく「きのうね、俺のファンだというハンサムな客を連れて帰ってたんだ。彼に会うと、さっちゃん惚れるかもしれないな」 そうして一週間後、中津原くんがまたやってきた。今度はさっちゃんが料理も担当して、しっかりメイクでお出迎えだ。あたしだって十年前のイモとは違う。「イラ38ストレーター」だもの。中津原くんだって見直すはずよ。しかし、中津原くんは全然気がつかない。あまりに気がつかないので、高校名とか本名まで告げるが、彼はなんの反応もない。普通に世間話をして料理を食べて、帰っていく。

その後、高校時代の同級生だった女から電話がかかってくる。実は彼女はかつて中津原くんと付き合っていたのだ。その「いやな」女は、さっちゃんが「泉さち子」という名のイラストレーターになっていることを、中津原くんに、すでに伝えていた。つまり、最初に家を訪問したときに、すでに彼は気づいていたのだ。彼はあくまでもビジネスライクに対応したわけね。

「さっちゃんが中津原くんに惚れたらどうしようと思っていたんだ」とオサム。「あたしが彼に惚れたらどうする気だった?」とさっちゃん。「あいつなぐってでもさっちゃんを離さない、うん?キザかなちょっと」 さっちゃんは心を射ぬかれて、ほろほろと泣き始める。オサムはその涙の意味がわからない。「どうしたの? さっちゃん、何で泣くの?」

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いやー、あらためて佳作だね。技が決まっているというか。最後のさっちゃんの涙(=乙女心)を分析してみよう。俺ってイヤなおっさんやな(笑)。ひとつは自分の穢れを自覚したということ。罪悪感ね。もうひとつは、オサムが自分をまっすぐに愛しているという事実に気づくこと。ここでオサムはまったくいきんでいない。
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あいつなぐってでもさっちゃんを離さない


あくまでも平静にこの科白を言ってるところがシブい。言葉としては「なぐってでも」という凶暴性をはらみつつ、である。あの穏やかなオサムが放った、一瞬の閃光。それは裏返せば、さっちゃんを深く愛しているということに相違ない。男の愛に条件なんてないんだよ、って女に説いているみたい。格好いい。そんな男の愛に包まれているという、安堵の心。以上、イヤなおっさんの分析 f(^^;)
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乙女心というやつは、往々にして複雑怪奇である。男おいどんにとって、それはお化け屋敷に近いものがある。乙女心というやつは、男の心に比べて、圧倒的に肥大していると思う。女は大変だね、そんな肥大した乙女心を担いで、いつも生きてかなければならない。男のアドバンテージって、なんだろう? やっぱり荷物が軽いことですよ。この場合はとくに「精神的に」ね。オサムの心の荷物なんて、ほんの少しだよ。なにも難しいところはない。男から単純さを取ってしまったら、何が残るのかしら? こう言いつつ、さっちゃんの涙を分析しちまっている俺は、すでに穢れた心の持ち主です。やっぱ、トシは取りたくないね。以上、漫画でBlogのコーナーでした。