村上さんがボブ・ディランを語るとき

久しぶりに「村上さんのQ&A」やってみたい。「これだけは、村上さんに言っておこう」から引用します。

<質問>僕は村上さんの「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」を読んで、ボブ・ディランのファンになりました。今度、コンサートに行く予定です。村上さんはボブ・ディランの歌では何が一番好きですか。(17歳 学生)

<村上さんの回答>ボブ・ディランの曲には良いものが多いですね。僕は生まれて最初に聴いた「風に吹かれて」(Blowin’ in the Wind)がやはりいちばん印象に残っています。リック・ネルソンやらボビー・ヴィーなんてのを聴いていたところに突然こんなのがひょっと出て来るんだから、びっくりしました。歌もやたら下手だしね。でも新鮮で、よく覚えています。すごい昔の話ですね。

<まるちょうの考察>オレだってボブ・ディランのことをよく知ってるわけじゃないけど、ちょっと語らせてください。まずは詳しくない人のために「風に吹かれて」を載っけておきます。オリジナルとジョーン・バエズによるカヴァーをお聴きください(写真はボブとジョーン☞かつて恋人同士だった)。

圧倒的にジョーンの方が歌はうまい。村上さんが「ボブは歌がやたら下手」というのも、うなずける。オレが初めてボブの「風に吹かれて」を聴いたときも「なんじゃ、このだみ声?」と顔をしかめざるを得なかった。でもやはり、ボブの命は歌詞なんだな。音楽をメロディーだけで済ませてしまう人には、ボブの良さは理解できない。今年のノーベル文学賞に選ばれたのも「詩人」としての側面だしね。カヴァーされることによって評価が上がる音楽家とも言える。

上記のように、村上さんはあっさり書いているけど「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」という作品では、ボブにめっちゃ深くコミットしている。この作品は「世界の終わり」と「ハードボイルド・ワンダーランド」のふたつのパートに分かれていて、最終的には、ある種の「融合」をなして終わる。ふたつのパートは、まったく文体が違う。そして「ハードボイルド・ワンダーランド」の方の文体は、明らかにボブ・ディランを意識していると思うのね。章の始めにイラストがあって、ちゃんとbob「Bob Dylan」とのサインがある。これは想像にすぎないけど、村上さんは「自分のボブ・ディラン的な分身」を主人公の「私」として表出させた。だって、ボブっていかにもハードボイルドっぽいじゃん? 今回のノーベル賞を受け取るかどうかのひと騒ぎでも、その一面を見せてくれたし。「こんなオレに構うな」っていう、厳しくも哀愁のある味わいね。

「ハードボイルド・ワンダーランド」より、面白い箇所を引用します。なにげないシーンだけど、村上さんは相当に重点を置いていると思う。レンタカーの女子店員と「私」のやりとり。

「これボブ・ディランでしょ?」「そう」私は言った。ボブ・ディランは「ポジティブ・フォース・ストリート」を唄っていた。(中略) 「ボブ・ディランって少し聴くとすぐにわかるんです」と彼女は言った。(中略) 「そうじゃなくて声がとくべつなの」と彼女は言った。「まるで小さな子が窓に立って雨ふりをじっと見つめているような声なんです」「良い表現だ」と私は言った。良い表現だった。私はボブ・ディランに関する本を何冊か読んだが、それほど適切な表現に出会ったことは一度もない。簡潔にして要を得ている。

ここの比喩は、たぶん三日は考えたな(笑)。いや、村上さんは比喩の天才だから数分くらいかな。でもそう思わせるくらい、入魂の出来ばえだよね。だって、これだけ自画自賛してるんだもの。ちょっと吹いてしまうくらいに(笑)。

最後に、村上さんとボブの共通点を挙げておく。まず正直さ。我が道を行く。あとを振り返らない。たぶんシャイ。行者としての人生。ちょっとへそ曲がりなところ。

今年ボブがノーベル文学賞に輝いた。これは何の根拠もないけど、、 来年は村上さんが、ボブに続くとオレは予想します。というか、オレの中では確信に近いんだけどね。来年は、えらい騒ぎになるぞぉ~!(・∀・) 以上「村上さんのQ&A」のコーナーでした。