「アンチエイジング」にもの申す

18アンチエイジングという言葉には、誰もが一家言あるかと思う。「老けたくない、いつまでも若々しくありたい」という欲求は、いったいどこから来るんだろう? 女性におけるアンチエイジングは、対外意識が強く働いていると思う。他の女に負けたくない、というやつね。これには「美の追究」という側面が含まれる。でもまるちょうは、もっと本質的なアンチエイジングを考えたい。まず掲げたい真理は「人は誰でも最後には死ぬ」ということ。「死」という地点に向かって、確実に老いていくプロセス、これが人生です。これはいわゆる「自明の理」なのであり、誰だってわかっている。でも・・わかっていない。生きていることが当然になっている人たちは、いちいち「死」について考えないんだよね。メメント・モリとは、よく言ったもんだ。個人的な意見ですが、「自分があとどれくらい生きられるか?」というイマジネーションから、アンチエイジングは生まれると思っている。

まるちょうが日ごろ実践しているアンチエイジングを具体的に書き出してみます。

スポーツジムに週三回。毎日、朝と晩にプチヨーガ(15分くらい)。37歳で禁煙。毎朝、体重と血圧測定。朝食時にオリーブオイルを少し摂取。


ジムとかヨーガなんかは、アンチエイジングのためというよりも、日々の労働の質を高めるためなんだけどね。ま、オリーブオイルだけは、日野原先生のマネだけど(笑)。こう書き出してみると、わりと俺、アンチエイジングやってるなという感じ。でも待ってくれ。俺はそれほど「不老不死」というものに興味はない。そうじゃなくて、俺の中に「長く生きないと、自分を表現しきれない」という一種の「焦り」みたいなのがあるのね。要するにスロースターターなんですよ。26歳で双極性障害という病で倒れた。最近ですよ、前を向いて人生を歩き始めたのは。何もかもが、これからなんです。だから「最低でも90歳」は生きたいと思っています。できれば100歳。逆算すると、あと生きられるのは50年くらいです。俺はこの「想像上の余命」をもとに、日々アンチエイジングを実践しているわけです。すべては「必要だから」やってるのね。

巷にあふれているアンチエイジングって、結局のところ商売だからね。「何のための」という部分があやふやだと、それこそ「単なる浪費」ということになる。「若さ自慢ごっこ」じゃないんです。カネというものは、もっと本質的なところに使うべきです。そのために必要なのは、結局のことろ「哲学」なんだよね。もっと端的にいえば「自分はどのように死んでいくのか?」という思考プロセスだと思う。そこには不老不死のような「無限の魔法」はあり得ない。むしろ「人生に魔法はあり得ない」というクールな態度こそが、アンチエイジングの本質だと思う。

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かの手塚治虫が描いた「火の鳥」をご存じだろうか? 火の鳥を捕らえてその生き血を飲めば、不老不死の体を手に入れられる。作中、愚かな人間を諭して火の鳥がこう言います。

あなたがたは何が望みなの? 死なない力? それとも生きてる幸福がほしいの? 虫がいるわね。それも生きてるわ。たった半年ぐらいしか生きていないのよ。カゲロウはもっと短いわ。親になってもたった三日の命よ。それでも不平はいいませんよ。虫たちは自然が決めた一生のあいだ・・ ちゃんと育ち、食べ、恋をし、卵を産んで、満足して死んでいくのよ。人間は虫よりも魚よりも、犬や猫や猿よりも長生きだわ。その一生のあいだに・・ 生きている喜びを見つけられれば、それが幸福じゃないの?



35本作で最終的に描かれるテーゼとは何か。それは「終止符を打てない人生は、地獄に他ならない」というものです。永遠の命を獲得するということが、どれだけの苦難を意味するのか。人間にとって「死という終焉」があることは、幸福なことではないのか? 手塚先生は、逆説的に訴えかける。

そういう視点で、私はひとこと言いたい。自分の「老い」を受け容れるべしと。これって「アンチエイジング」に反する態度のようにみえますが、そうではない。真のアンチエイジングとは、矛盾を含むように思う。加齢に寛容だが、加齢に反発する、みたいな。だって実際に高齢になって自分がしわくちゃになって、腰も曲がって、そうした自分を許せなければ、老人として生きていけないですよ。そういう意味で、長生きをするということは「途方もない闘い」であり、近づく「死」とにらめっこすることなんです。一方で「ときめきの中で死す」みたいな幻想を、たまに見かけますが、実にけしからん。人生というものに対してこれほど傲慢な態度を、私は知らない。商売としての「アンチエイジング」にカモられているのは、案外こういう人種なのかも(笑)。

最後に。私は死を意識しないアンチエイジングには、なんの興味もないです。自分の人生を大切にしたい。ていねいに生きたい。チューブに残った中身をしぼり出すように、自分の人生を慈しんで生きたい。手塚先生のおっしゃる通り、死があることに感謝しつつ、でも加齢には抗いつつ。人生って、矛盾だらけですね(笑)。