ミレーを描いています(途中経過など)

大人の塗り絵シリーズ! 実はGWから、ある絵に取り組んでいる。「晩鐘/ジャン=フランソワ・ミレー作」です。初めて見たときから、何かしら「深さ」を感じさせた。いわゆる「華」は、ない作品です。でも、すっと過ぎてしまうには、あまりにも重い「何か」がある。大人の塗り絵の第三弾は、これで行こうと決めていた。

GWから始めたはいいものの、なかなか進まない。えんえんと地面を描く作業。やっぱ、この絵は地味なんですわ~ 描いていても、心がウキウキしない。iPhone騒動などもあり、大人の塗り絵どころじゃなかった。気がついたら、二ヶ月たっていた。こりゃあかん!と、Blogを小休止して、ちょっと「てこ入れ」した。どんな作業でも、あまりにも間延びしすぎると、悪い影響が出やすくなる。今月、ちょっと頑張って描いて、見通しがなんとか立ったかな。

下記に作業中の「塗り絵」を載っけておきます。これ、まだまだ手を入れなければいけないところが多々あります。まだまだです。ただ、途中経過として、いったんBlogにアップしてもいいかな?と判断しました。それはなぜか? この絵画の真髄を垣間みて、大いにのけぞったからです。単に「地味だけど、なにかメッセージ性の強い絵画」という風に捉えていたのですが、実際はもっともっと大きな歴史のうねりの中で、輝きを放って生き抜いてきた作品だったのです。

晩鐘


この絵画が「祈り」をテーマにしていることは、間違いない。描いているうちに、それは気づくことができた。でもちゃんと調べてみて、唸らざるを得なかった。ミレーが子供のころ、夕方の鐘が鳴ると、祖母は農作業の手をやめさせ、帽子を脱ぎ、哀れな死者のためにアンジュラス(ラテン語で、天使の意)の祈りをするように言うのが習慣であった。そういう思い出を描いたのが、この「晩鐘(正式名:アンジュラスの鐘)」なのである。西洋文化史家、中野京子氏の「正鵠を射る」文章を見つけたので、載っけておきます。

ここはパリから南に50キロほど下った、小さな村バルビゾン。遠くに見えるシャイイ教会が日に3度、朝昼晩とアンジュラスの鐘の音を響かせ、人々に時を告げるとともに祈りを促す。夕闇迫る今この時は、1日の終わり、つまり苛酷な戸外労働の終りを意味し、若い夫婦は首を垂れて祈ったあと家路につくであろう。画面右上の、ねぐらに帰る烏たちと同じように。

背景の明るさとは対照的に、ふたりの立つ前景は暗い。陽の当たる背景には積み藁の名残が見られ、豊かな麦畑であることが示され、影の濃い前景の土地は痩せ、夫婦のわずかな収穫はジャガイモである。ミレーのもうひとつの傑作『落穂拾い』と同じく、「富む背景、貧窮の前景」が示されている。ジャガイモはパンを食べられない貧民の主食だった。だから手押し車に載せた袋には商品用のそれ、足もとの手籠には自分たち用のそれと分けて入れてある。

両手を合わせた妻と帽子を持つ夫の祈りのつぶやき、澄みわたる鐘の音、そして遠く鳥の鳴き声と、農村の夕暮れに満ちるさまざまな音さえも聞こえてくるような画面だ。ふたりの人間が向き合って立っているだけの単純な構図の中に、農民の人生(ひいてはその運命)、日々の労働(ひいてはその崇高さ)、また貧しいながらも愛し合い信頼し合う夫婦の美しさが、みごとに捉えられている。



なんか五月から、えんえんと、だらだらと地面ばかり描いてきて、その「先の見えない地味さ」に辟易としていた自分を、恥じたいと思います。こんなに素敵な絵画だったんだ! やはり直観で感じ取った「深さ」は、本物だった。上記のように実際に文章化されると、すとんと腑に落ちる。リアルに農民の夫婦を描いた可能性もあるが、ミレーの中にある「心象風景」でもあっただろう。ミレーの死後10年ほど経過して、ようやく本作の価値が認められ、値段が高騰し、パリの競売場ですさまじい競争を巻き起こしたらしい。最後には、アメリカのロックフェラーとフランス政府の一騎打ちとなり、ついにフランス政府が落札した。このときには「フランス万歳!」との熱狂の声が群衆から湧き上がった。以後も、歴史に残る名画としての威光をいかんなく発揮し、最終的にはフランスのオルセー美術館に所蔵された。

何度も言いますが、まだ途中です。今回の塗り絵のテーマは「いろいろな画材に挑戦する」ことです。いつもクーピーペンシルだけでしたけど、上記の絵は「ダーマトグラフ(黒)」という画材を、ためしに使ってみました。ワックスを多く含む色鉛筆で、一般には「グリースペンシル」と呼ばれるそうです。つまり狙いとしては、黒に深みを与えたかったのです。もくろみは当たり、ちょっと油絵っぽい質感が出ていると思います。手前の部分の枯れ草とか、余白をどう処理するかとか、まだまだ「途中」です。でも、ちょっと手応えは感じています。あまり焦らず、秋にかけてぼちぼちやろうかな、と思っています。なかなか年に何枚もは描けませんね。f(^^;) 以上「大人の塗り絵」の近況を書いてみました。