弁当・・「人間交差点」より

漫画でBlogのコーナー! お気に入りの短編漫画から、まるちょうなりに語ってみたい。今回は「人間交差点/矢島正雄作 弘兼憲史画」より、「弁当」という作品を取りあげてみます。まずは、あらすじから。

何もかも変わってしまった・・ サラリーマンの平原は、そう感じていた。五年間にもおよぶ東南アジア駐在を終えて、日本に帰ってきたものの、彼は妙な違和感を抱いていた。東南アジア駐在は単身赴00任であり、苛酷な仕事だった。弱音を吐かず、脇目も振らず、現地で仕事を続けた。五年たって帰国すると会社は財テクが主体となり、何をしているのか平原自身にもよく分からない。上司曰く「君はどうも独断で働きすぎたね。五年間の君のご苦労に報いるだけのポストを用意できんのだよ」と。そんなつもりで平原は、仕事をしていたのではない。「向こうで新しい家族でも作ったんじゃないかと真顔で言うバカもいるんだ」・・いったい何が言いたいんだ。

37平原は小山という実直な先輩を慕っていた。しっかりした仕事もいくつも残しながら、出世もせず、目立つ評価もされず、笑顔で定年退職していく小山に、平原は言いしれぬ共感をおぼえていた。彼は小山と食べる老舗料亭の弁当が大好きだった。五千円もする弁当を、二人して目を輝かせながら食べる。その小山も退職後、半年で逝ってしまった。

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新入社員と一緒に、例の弁当を食べるが、彼らの反応はみなそっけない。八千円に値上がりした弁当も、皆ぞんざいな感じで食べ残し。一人ずつその場を去り、独りぽつねんと取り残される平原。

家庭に戻ると、妻は「駐在手当がなくなるとやっていけないわね・・」と漏らす。「ねえ、もう一度どこか違うところの駐在員ってないの? ヨーロッパなら私たちも一緒に行っていいわよ」妻は続ける「そうす21れば子供たちは帰ってから帰国子女で有名私立に編入出来るしさ・・」 目の前が真っ暗になる平原。

今日も平原は独りで老舗料亭の弁当を食べる。三千円のお弁当に感動した、何でもない人生。社会人になったことを実感させてくれた五千円のお弁当。何も語ってくれない八千円のお弁当。今は亡き小山との楽51しいひとときに思いをはせる。「ほほう、こりゃまた豪勢な」「これ新筍ですよ、この時期の筍ってすごく貴重なんじゃないですか?」「へえ、これはまた手のこんだ仕事がしてある・・どれ」「どうですか、お味は?」「うまい! 最高! 人生に感謝だ、ハハハハ」 平原は独り、想い出にふける。そうして、あの滑稽で隙間だらけの人生を温めてくれた弁当を食う

本作で描かれる平原という人物が、自分に重なって仕方ない。この人物に背負わされた性質は「正直」ということである。「正直者が馬鹿をみる」という。それは確かに真実だと思う。ポストモダンの現03代においては、特にそうだと思う。なんといっても、価値観が多様だから。散り散りになった価値観が人々を迷わせ、「正直」という価値を皆でおとしめてしまう。皆は言う「正直なんて、もう古いよね」と。そう「正直」とは、時代おくれの価値観なのだ。

ポストモダンの個人的イメージは・・ 「曖昧」「繊細」「器用」「無責任」かな。あえてひとことで表現すれば「芯のなさ」か。まるちょうは、そうしたものを憎悪する。「人生の敵」とさえ言ってしまおう。その場その場で、立ち位置を変えてしまう人は、結局なにも生み出さないと思う。本作に出てくる「会社の利益の半分が財テク」というのも、馬鹿げた話だ。儲かればなんでもいいという感覚は、いわゆる「バブル」に通じるだろう。会社の「もともとの理念」がなんだったか、トップは常に顧みなければならないのに。

生前の小山は、こう言っている。

皆そうさ、あの頃は誰でも貧しかった。私はあの時つくづくサラリーマンになったことをよかっったと思った。何もない人生だが、私の人生も悪くないとね。安いもんだね、三千円の弁当で人生に感謝してしまうなんて、ハハハハハ。

まるちょうは、こういう人を信用するね。自分の価値観を「安いもんだね」と謙虚にみれる視点が素晴らしい。どんなものでも、素直に感動できること。これって、生きていく上で結構だいじなポイントだと思うんだけど。平原が弁当をごちそうした新入社員たち・・ポストモダンの世代は、飽食の現代を生きている。「食」に対する感謝の気持ちは、減って当たり前だろう。それは時代のせいなのかもしれない。素朴で純粋な感性を取り戻せというのは、時代錯誤なんだろうか?

ビリー・ジョエルの「オネスティ」といううたを振り返ろう。



Honesty is such a lonely word
Everyone is so untrue

02ビリーは、いみじくも言っている。「正直」という言葉は世の中から、あまりにも隅に追いやられて「孤独」だと。それほど社会はウソに満ちている。欺瞞でのし上がった大人たちが、世にはばかるという構造。ラストの一コマが象徴的である。独りモグモグと弁当を食う平原。確かに正直は「滑稽で隙間だらけ」である。それの何がわるい? 私は平原の生き方を、だんぜん支持する。「正直」が最後には勝利すると信じて・・ 以上、漫画でBlogのコーナーでした。