Steve Jobs伝記(下巻)を読んで(1)

八月の中旬くらいに二回にわたり、上巻の感想Blogを書きました。下巻については「それほど書くこともないか」と思っていたんですが・・ ネタを整理していたら、なんだか気分が高揚してきて、止まらなくなってくるんだよね。スティーブという人は、なにかしら人を夢中にさせる「ある種の毒」を持っていると思う。それは例えば、ビル・ゲイツには全くない。ビルは世界一の金持ちにはなったけど、ただそれだけの人だ。伝記を書くとしても、そうとうに退屈なものになるだろう。スティーブは己と不可分な「毒」と生涯をつうじて闘いぬき、苦悩し、絶望し、でも立ち直り、そうして自分の描いた理想を実現した。もちろん間違ったときも、多々ある。でも、それを全部ふくめて「人を魅了する毒」なんだな。村上春樹的に表現すると「壁になることを拒み、卵としての弱さを持ち続けた戦士」ということだろうか。ちなみに「壁」に相当するのはビルです。今回は映像をまじえて、つぎの二点で語ってみます。

#1 Think Different
#2 メメント・モリ


まず#1から。スティーブがAppleに復帰して、まずインパクトのある広告を作ろうとしていた。「Appleはまだ元気だ、今も特別なんだ」と内外に示すCMだ。広告史に残る「1984年」のCMを手がけたリー・クロウが、ひとつの魅力的な案を提示する。「Think Different」という凄いアイデアだ。それを示されたとき、スティーブは泣いたという。傲岸不遜で怒りっぽくて、あまのじゃくだけど、ときに「真に純粋なもの」に触れると、泣いてしまう一面がある。本当におかしな人だ。リーの提案のことを思い出すだけでも、涙がでる。「Think Different」というアイデアはそれだけ本質的で、当時のAppleに必要なすべてを象徴していた。前置きが長くなった。とりあえず、現物を見ていただこう。私はこれを見るたびに、心が震えてしまう。60秒という尺に収められた魔法・・とさえも、言っちゃうね。ナレーションはスティーブその人です。


クレージーな人たちがいる。反逆者、厄介者と呼ばれる人たち。四角い穴に丸い杭を打ち込むように、物事をまるで違う目で見る人たち。彼らは規則を嫌う。彼らは現状を肯定しない。彼らの言葉に心を打たれる人がいる。反対する人も、称賛する人もけなす人もいる。しかし、彼らを無視することは誰にもできない。なぜなら、彼らは物事を変えたからだ。彼らは人間を前進させた。彼らはクレージーと言われるが、私たちは天才だと思う。自分が世界を変えられると本気で信じる人たちこそが、本当に世界を変えているのだから。

ここで言いたいことは「コンピュータに何ができるのかではなく、コンピュータを使ってクリエイティブな人々は何ができるか」ということ。スティーブ曰く「テーマはプロセッサーのスピードやメモリではなく、創造性だったんだ」と。これは方向性を見失っていたApple社内に向けたメッセージでもあった。自分にとってのヒーローが誰なのか、もう一度考えてみろ、と。

個人的なことを少し書こうと思う。私はある意味で「クレージー」です。研修医1年目で失踪事件も起こしたし、その後、双極2型障害という病気と付き合うこととなった。組織という「化け物」が苦手で、自分のことをどこかで、マイノリティと考えている。マイノリティ? なんかいい響きだけど、要するに「社会のはみ出し者」なんだな。このCMは、そんなマイノリティたる自分を慰めてくれるのです。「いいんだよ、そのままでいいんだ」と、背中を優しく叩いてくれる。映像に出てくる人は、みな「変な人だけど、歴史にその一歩を刻んだ人たち」だ。普通の人と違うベクトルの上で生きて「変人」と揶揄されながらも、自分の進む道を信じ切った人たち。よくこれだけの映像(映像であるところが肝心!)を集めたもんだ。そうして思う。やっぱり生きるのに一番だいじなのは「勇気」なんだと。次回は「#2 メメント・モリ」と題して、語ります。