ショーシャンクの空に/フランク・ダラボン監督(1)

「ショーシャンクの空に」(フランク・ダラボン監督)を観た。これ観るの、三回目くらいかな? まるちょうは、今回が一番感動した。良い作品って、そんなものかもしれない。冤罪で投獄された男が、約20年後に見事な脱獄を果たすストーリーだ。いちおう予告編貼っておきます。



主人公はアンディ(ティム・ロビンス)。銀行の副頭取で、年齢設定としては三十代半ばだろうか。三回観て一番頭に残ったのは、このアンディの「脳力」である。刑務所内の古株で「調達係」のレッド(モーガン・フリーマン)が感じていたように、アンディには一言で表現しにくい「異質性」があるように思う。結局のところ、その「異質性」こそが人生の成功のために必要な資質なんじゃないか。本作を何度も観て、視聴者にそう語りかけているように思えた。ふたつの軸で、文章を書いてみようと思う。

#1 成功するための「異質性」とは?

#2 希望ってなんだろう?

まず今回は#1から。一番感じるのは「待てる」脳力だと思う。事を焦らないというか、人生の「大きな流れ」に逆らわないというか。大きな落とし穴に嵌まってしまっても、無駄にもがこうとしない。ひとまず問題は脇に置いといて、目の前のことを淡々とこなす。その一方で、ちっぽけなロックハンマーでもって、20年かけて脱獄用の穴を掘ってしまう。これは個人的な推測だけど、穴自体はもっと早く完成していたんじゃないかと。脱獄の直接のきっかけは、所長によるトミーの射殺(口封じ)である。結局普通にしていたら、死ぬまで出所できないことが判ったからだ。「待てる」脳力があるために、冤罪で刑務所にぶちこまれても、そこそこ順応してやっていける。辛抱強いという見方もあるけど、むしろ私は彼の「鈍感力」を指摘したい。

それともうひとつ、「公平さ」かな。思考の流れが非常にニュートラルだと思う。そして、いつも対象にとって「ためになる」ことなら、自然と体が動くのね。例えば、工場の屋根の修理のときのエピソードもそう。冷酷な主任刑務官が遺産相続問題で困っているときに、危険を省みず、元銀行員の知識を活かしたアドバイスを進言する。ここでの「命がけの進言」で、仲間はうまいビールにありつける・・春の珍事である。しかしこの行動は、いわば「無私」のものであって、アンディはせっかくのビールにさえ手を付けない。彼は単に「自分が人の役に立てるから」そうしただけなのだ。そして、役に立てたから、それで充分満足なのである。その延長線上で、施設内外の人間の税務処理や貯蓄計画などの相談に乗る。最終的にノートン所長の財産隠しまで請け負うことになる。自然な成り行きの中で、与えられたチャンスを淡々と活かしていく。

ここで少し言わせて欲しい。「公平さ」って、ある種の人間には奇異に映るかもしれない。というか、相当に「孤独な」性質だろうね。それだけ俗世間は、利己主義という埃にまみれているから。というか、誰しも「自分の利益」を考えずには生きていけないもんね。でも結局のところ、利己主義からは本物は生まれない。公平な視点、思考、行動からこそ、本物は生まれると思う。ノートン所長の所得隠しなんて、利己主義の最たるものだしね。「隠れた利己主義」が、いかに純粋なもの、善きものを蹂躙しているか。本作はそうした「一見なんの力も持たない」純粋な人間が、隠れた巨悪をクールに叩きのめすところに、最大のカタルシスがある。

あとやはり「ここぞという時の行動力」かな。偏執的と言えるほどの徹底性と持続性。この属性こそが、ちっぽけなロックハンマーで穴を掘り、最終的に脱獄へと結実する。他には、図書館への予算請求の手紙なんかそうだよね。州議会にしつこく手紙を書き続けて、最後は粘り勝ち。アンディには、どこか常軌を逸した部分がある。そこに秘められた爆発力があると思う。

最後に「自分の世界を譲らない」こと。静かに、しかし堅くポリシーを持っている。そのポリシーとは「心は豊かであるべき」ということだ。一番分かりやすいのが「フィガロの結婚」を全館に大音量で流すシーン。彼は所長がドア越しに「音楽を止めろ!」とわめくのを尻目に、更に音量を上げる。結局アンディは懲罰房に二週間入れられるんだけど、彼は全然懲りてないのね。懲罰房から出てきても「こんなの当然」みたいな感じで(笑)。そこでの科白が印象的。

音楽は決して人から奪えない。そう思わないか?(中略)心の豊かさを失っちゃダメだ。(中略)人間の心は石でできているわけじゃない。心の中には何かがある。誰にも奪えないある物が・・君のこころにも・・(レッドに「一体なんだ?」と訊かれて)希望だよ。

以上、「成功するための」よっつの性質を挙げてみた。このよっつを一言に集約するとしたら「知性」ということになるだろうか。たぶん視聴者は、アンディのそうした「異質性」を目の当たりにして、奇妙な憧れを持つのではないか。賢者は、それを学ぶだろう。次回は「希望ってなんだろう?」というお題で書いてみます。