近況・・胸部症状を訴える60代男性

16日から、うつで体調不良でした。昨日勤務して、寝てから、ジムで運動も出来て一安心と思いきや、本日は意欲低下、過眠ふたたび。そうしたわけで、Blogのネタが練ってありません。どうしようか・・ 病床にてぼんやり考えていたのですが、そういえばありました! 17日の外来でちょっとスリリングな出来事があったことを思い出したのです。とりあえず、書きやすいネタで、一回分なんとか書いてみます。

17日(金)の一般外来。金曜日の外来は、診療体制上、どうしても私の外来に患者が集中してしまう。その日も結局午前九時開始で、終わったのは午後三時。その60代男性を診察したのは、たしか二時頃だったと思う。問診票には「午前六時から胸苦しい感じあり。七時頃増強。今は落ち着いている」みたいなことが記されていた。事前にECGもとってある。

さて、まずは詳しい問診から。よく訊くと、一ヶ月前にも軽い同様の症状があったと。それ以前はなし。持病に糖尿病で投薬あり。喫煙は一日20本を40年以上。午前六時に感じた「胸苦しさ」は、30分から60分後くらいに増強して、冷や汗が出たと。その後、しんどいので寝て、けっこう寝たが、体が冷えきって起きたとのこと。診察している現在は、その「胸苦しさ」は1/10程度まで軽減しているが、残っている。


ここまで訊いて、まともな医師なら「これはやばい」と感じる。外来業務五時間経過しているが「いかんいかん、ほんまもんらしいぞ」てな調子で、自分に喝を入れる。ECGを参照すると|| ||| aVfでSTわずかに低下している。本人さんに確認したところ、健診などでECG異常を言われたことはないと。ますますやばい。病名としては、不安定狭心症の疑いである。

さて、本当に医師が骨を折るのは、ここからなんですね。まず、この患者さんを入院させるべきか、あるいはニトロを処方していったん帰すか。もちろんこちら側としては、入院していただければ一番安心です。でも、こうした患者さんのほとんどが「病識がない」ことが多い。このおっちゃんも、いわゆる「三味線」の好きな人で、丁々発止のやりとりが繰り広げられた。相手が何を希望して、どういう社会的背景があって、どういう死生観を持たれていて・・ そうしたあれこれを吟味して、いわゆる「落としどころ」を決めていく。

この患者さんは、初めから「入院してもいいよ」というスタンスだった。ただし「コロッと逝けたら、一番ええわ~」とか、言わはる。ほんま三味線好き。のれんに腕押しとは、このことか。そうした「押したり引いたり」の会話の合間を縫うように、不安定狭心症や心筋梗塞について、できるだけ具体的に説明する。「心筋梗塞で二割死ぬ」という事実は、たいてい患者さんを脅かすには十分な情報のはずだけど、この人は特に怯える風でもない。人ごとのように感心しはる。

ま、そんなこんなあり、結局入院していただくことになった。本当は採血しておくべきなんだけど、すでに二時まわってるし、あとは紹介先の病院の先生に任せようと考えた。二時を過ぎての、このおっちゃんへの説明、やりとりは、けっこう疲れた。時間もかかったし、終わってから「はー・・」とため息ついたもん。他の患者さんも、まだ待ってはるし、ほんま「はー・・」って感じだった。とりあえず、入院してもらったので安心。一仕事した感じ。

翌日も一般外来。電子カルテで、入院先の患者さんのカルテを参照できる。診療の合間にチェックしてたが、なんと即日に心カテされていた! 救急番の先生が採血されて、トロポニンIが明確に上昇していた。ちなみにCPKは上昇なし。CPK-MBは微増だったかな? 要するに、専門的には「急性冠症候群」という状況で、心筋梗塞の「ほぼなりかけ」です。一刻も速くPCI(心カテからのステント留置など)を必要とする。そのおっちゃんは、なんと三枝病変だった。左回旋枝が99%+造影遅延あり。つまり、閉塞寸前だった。同部にステント留置され、事なきを得たのだった。他の左前下行枝や右冠状動脈は、また後日PCIを行うようだ。

その事実を眺めながら、前日の自分の仕事の重さを反芻していた。こうした時、総合内科医は「やりがい」を感じるし「人を救った」という実感を持てる。二時をまわった疲労感の中で、獅子奮迅(←大げさかw)の患者さんとのやりとり。あの時、頑張っといてよかった。ほんま「一見どうもないけど、実は重症」という患者さんは、わりと診療の終わり頃いらっしゃる。だから、総合内科医は、最後まで気を抜けないし、むしろ終わり際に重心を置く必要があると思います。個人的な事ですが、16日にうつで一日寝ていて、その翌日だったので、自分でもよくやったと褒めてやりたいです。最後は「ドヤ顔」みたいになりましたが、最近の診療からBlog書いてみました。