小説 40cmのペニス(前編)

【まえがき】Twitterですでにつぶやいていましたが、今回ごく短い小説をアップしたいと思います。一度文章を「小説」という形☞具体的には三人称が主人公で、書いてみたかった。実はずっと温めていたモチーフがあった。昨年5月22日の近況Blogのよっつめのエピソード。まるちょうは基本的にコメディが好きです。人を笑わすのが大好き。小説にするモチーフとしては、若干生々しいのですが、あえて取り組んでみました。お蝶夫人♪にも協力いただき、今回処女作をアップいたします。一気に全部かふたつに分けるか迷ったのですが、まるちょうの判断で、今日と明日の二回に分けてアップいたします。モチーフとなったエピソードは、ずばりまるちょうのお気に入りです。小説という目に見えないハードルを取っ払うためには、絶好のモチーフだったと思う。前置きが長くなりました。それでは本編をどうぞ。


お好みでBGMをお楽しみください。ちょっとしたスパイスになるでしょう。

Hotel California/The Eagles

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紅葉の美しい11月の京都。丸長宏(まるながひろし)は、この時期の京都が好きだ。新幹線を降りた彼の視界に、京都の街並が映る。暑がりの彼は夏の京都は御免こうむるが、晩秋の京都は、ひんやりした空気やくすんだ街の色合いが好きだ。時計を見ると、すでに午後四時を回っていた。JR京都駅でタクシーに乗りHホテルへ向かう。40代の彼は製薬会社A社の敏腕MR(医療情報担当者)で、K大学病院などを担当していた。彼の仕事ぶりはいつも誠実でスマート、医師からも「信頼できるMR」として評価されていた。部下からの信頼も厚い。まさに「島耕作」を彷彿とさせるサラリーマンである。

出張という行為は、いつも微妙な感情を抱かせる。愛する家族とのしばしの別離である一方で、羽を伸ばせる自由な時間とも言える。丸長は、そうしたアンビバレンスがもたらす一種の困惑を、今回も感じていた。晩秋の京都の街並を、彼はぼんやりと車中から眺めていた。晩秋がもたらすセンチメンタリズムを、彼は嫌いではなかった。それはある意味では「出張という小旅行」がもたらす精神の浮揚だったかもしれない。

Hホテルにチェックインする。新築のHホテルは、もちろん丸長も初めてである。新築のホテルというのは、ちょっとワクワクするものだ。こうした時は「羽を伸ばす」という側面が強くなっている。旅の開放感が彼の心を占めている。茫漠とした寂寥感は、すでにない。フロントで部屋のキーをもらって、エレベーターに乗る。彼はドアのキーを回して、部屋に入るときの瞬間が好きだ。ホテルが新しい場合はなおさら。これから一晩、お世話になる空間なのだ。自分のプライバシーをさらけ出す空間。外行きでなく、素の自分を包み込んでくれる空間。そんな「新世界」との初めてのコンタクトなんだな。

部屋は予想通り、何もかも新しくて爽やか。暑がりの丸長は、Tシャツとトランクス一枚になり、ベッドに寝転ぶ。「ムフフ、いいなぁ~」丸長はわけもなく半笑いになった。新しい部屋の仔細を点検して回る。ふとテレビの横に置いてあったテレビ番組表が目に入る。テレビのリモコンの使用法や、チャンネルの案内が書いてある、例のあれだ。そしてもれなくアダルト放送の番組表も二種類付いていた。彼はそれを見て「極めて本能的な欲望の疼き」を感じざるを得なかった。

丸長はため息をついた。彼は「個室」という状況が、とてもエロいと思うのだ。これは自分だけなのだろうか?・・彼は首をかしげてしまう。プライバシーをさらけ出せる空間。隠された秘密の解放。自由とリビドーのままに振る舞い、一切の外的な懲罰をシャットアウトする。おいらのユートピア、万歳! ・・個室って、なんてエロいんだろう。また、そういうエロいところに限って、エロいアイテムが置いてあったりする。医師の当直室にエロ本が置いてあるという噂をよく聞くが、それも決して例外ではない。こういうのを世間一般では「罠」と呼ぶ。忌まわしい罠、いくら嫌悪しても、みなその悪の魅力に堕ちていく・・

丸長はそのアダルト放送の番組表を手に取って見た。今は午後五時過ぎ、何やってんのかな~?という軽いノリ。番組表全体に卑猥な煽り文句が、所狭しと並んでいる。今やってる番組☞「さお師の暴れん棒が黙ってないぜ!ヒーヒー言わしたる!」・・コホン。アダルトビデオのタイトルとは、だいたいこうした感じだ。でも彼はこのタイトルに、少なからず興味を持った。苦しゅうない、近う寄れ。彼の妄想はどんどん膨らんでいく。「さお師の暴れん棒」って、どれほどのモノなんだろう? それに一体、どんな「さお師」なんだろう? かなり凄いんだろうか? ナニが暴れるくらいだし・・ 

有料放送は、数秒間だけ無料で視聴可能である。エロモードに入りつつある丸長に、この「次の一手」を遮るものは何もなかった。安っぽいラビリンスへの誘い。繰り返すが、個室なのだ。「宏、そこで何してんの!」と叱る人もいない。悪魔がどこかから「リモコンのボタン押しなよ~」と甘くささやく。丸長はためらいもせず、有料放送のボタンを押した。そして画面に映し出された映像を観て、彼のやるせないリビドーが疼きだしたのだ。(つづく)