全く眠れず、深夜に起きだして書斎へ。二時間くらいだろうか、HL中心に診断と治療、予後その他について調べた。焦燥感があった。次第に、自分の中で「リンパ腫(HL疑い)」に固まっていった。リンパ腫全般で「高サイトカイン血症」という状態が生じる可能性があり、その結果として高熱が出ることがある。調べれば調べるほど、悲しくなった。ため息しか出てこなかった。
翌朝、そのへんの心情などをお蝶夫人♪に吐露。私はすでに再診日にHLの可能性について触れるつもりだった。しかし彼女は「いきなりは、あまりにも突然過ぎない?」と忠告してくれた。実は、彼女は血液疾患のマニア的なところがあって、闘病記Blogなどをよく読んでいる。つまり、患者目線でのアドバイスなのね。確かに言われてみるとそうかもしれない。いろいろ考えた挙げ句、再診日はHLについては触れず、画像的な検査だけすることにした。胸部CTと腹部USね。胸腹部のリンパ節腫大をスクリーニングする目的。もしあったら予後が悪くなる。そして、この検査をすることで、少しでも本人さんが何らかの違和感を持たれたら成功というわけ。「悪性疾患の可能性」を語るまでに、ワンクッションをおきたい。
再診日当日。私は相当に緊張した。採血の結果としては、CRPと血沈が軽度上昇のみ。WBCも軽度増加していたが、分画は正常。その他は、まるで正常。その何の変哲もない結果を説明する。そして、さりげなく追加の問診と診察をする。まず、盗汗と体重減少はなし。そして顎下部のリンパ節腫大が「両側性」であることを、慎重に確認する。この「両側性」ということで、病期が違ってくる。リンパ節の圧痛は、消失していた。無熱期はリンパ節の炎症が小さくなるのだろう。診察しながら、ちょっと手が震えた。もし「何を考えておられるんですか?」と詰め寄られたら、その時は仕方なく説明するつもりだった。でも、その若年女性は深くは訊いてこなかった。素直に胸部CTと腹部USの検査に協力してくれた。ちゃんとした説明は、この画像の検査の結果が出てから話します、と告げた。診察後、どっと疲れた。二度の医療面接で感じたこと。この若年女性は、いわゆる「性善説」を感じさせる。医療側が差し出す「流れ」に逆らわない、懐疑を心のずっと奥に潜めた、とても自己抑制のある人だと思った。別の言葉で表現すると、タイプCということになるのかな? その日の帰路、ホントに心がもやもやした。
さて、胸部CTは縦隔リンパ節腫脹なし、腹部USもNPという結果。その時点で、もしHLだとすれば、病期は2B→化学療法中心となる。生命予後は5年生存率80-90%。HLを説明するにあたり、この生命予後の良さは強調するつもりだった。まぁしかし、若年女性ゆえのいろんな問題はあるんだけど・・ それにはあえて触れないことにした。
再再診当日。その日の外来は異様に混雑してごったがえしていた。私は前回ほどの精神的余裕はなく、バタバタした中で「HLを含むリンパ腫の可能性があること、確定するまでにいくつか重要な検査があること、最終診断のために生検が必要なこと、生命予後は極めてよいこと」などを説明した。いくつか質疑応答があり、当然あり得る「否認」の態度を彼女の中に見た。ただ、腫瘍の可能性がある限りは、それを軸にした精査がどうしても必要である、と何度も説明した。そして、年明けに血液内科の専門外来へ紹介とした。
私は泣かれることを覚悟していた。普通の若い女性だったら号泣だよね。でも彼女は泣かなかった。あくまでも理性的に、私の説明に対して「抵抗」された。終始平静だった・・もちろん心の中は千々に乱れていただろうけど。その混乱した心を必死に抑えられていた。私は正直「大したものだ」と感嘆していた。実際に言葉でもそう言って褒めたくらいだ。その賛嘆が、彼女にどう届いたかは分かるはずも無いけれど・・
極めて忙しい、疲弊した外来業務の中で、こうした説明をせざるを得ないことが、とても不本意だった。やるべきことはやったけど、なんか「これでよかったんかな?」という不完全燃焼感がただよった。これから検査(生検含む)→抗がん剤治療が待っている。生検では顎下部に傷が残るだろう。これは若い乙女にとっては、少なからずショックなこと。もちろん、激痛を伴う骨髄穿刺も必要だろう。それ以上に心配なのが、抗がん剤治療の卵巣に対する影響。20代前半で不妊に関する不安を持たなければならない。卵子の凍結保存とかあるんだろうけど、それはそれで辛い道のりと言わざるを得ない。
これから彼女が受けるであろう様々の傷・・心と身体の。これを考えると、ため息をつかざるを得ない。ホントにため息しか出ない。でも彼女なら乗り越えられると信じている。三度医療面接しただけだけど、その資質は十分に持っていると直観で分かる。まるちょうは思うんだけど、人生には、ある意味で「歪み」が必要である。歓迎されない「歪み」だけど、それを乗り越えれば、人生に大きなベクトルが生まれるから。彼女の場合、それがたまたま20代前半に来ただけだ。そういう苦難は、人生においていつかは来るんだから。頑張って欲しいと思います。ホントは、こうしたことを外来で言いたかったんだけど、言える時間も精神的余裕もないわな。そのへんが、もやもやなんです。Blogでこうして書けて、ちょっとホッとしました。(^_^)
以上、「近況・・不明熱の若年女性」というお題で語りました。