近況をふたつほど。
ひとつめ。先月25日に、恐ろしく凹むことをしでかしてしまった。ずばり、iPod Touchのバッテリー交換。2009年秋に購入後、約二年経過してバッテリーの持ちが悪くなってきていた。新型iPod Touchへの買い替えや、Androidスマホに変えるという選択肢も考えなくはなかったが、現状ではそこまではいいかな?と思っていた。というわけで、一番無難な「現行マシンに手を入れて継続使用」ということで、自分の中では結論が出ていた。
ただ、バッテリーを交換するのに一番安い方法は?となると、Amazonなどを見ていると「自分でiPodを解体してバッテリー交換する」というのが、とても勇ましくて格好よく見えた。「よし、俺もやったるぜ!」・・威勢良く、Amazonで交換用のバッテリーとはんだセットを購入。先月25日の夜にやる予定だったが、午後にたまたま時間が1時間くらい空いたので、かなり安易な気持ちで作業に取りかかる。ちなみに、Amazonのレビューでは「15分くらいでできる。30分もあれば余裕」みたいな調子で書いてあった。要するに「誰でもできる簡単な作業」という認識だった。
さて、いざやり始めると、第一段階からしてできない。「あれ?おかしいな?」そのうちに、ぐいぐい力が入ってくる。あっという間に30分経過。どんどん心は焦るし、混乱してくる。30分以上経過した頃には、もうすでに我が愛機は傷だらけ。もう引き返せないモードに入ってしまった。
それ以降の描写は、やや抽象的にしておこう。かなり無理をして「第一段階の分離」をしたのだが、その頃には液晶もあちこち損傷。息づかいが荒いぞ。動悸も少しする。額から汗が噴き出す。焦燥しきった頭では「ここで諦めて、作業を中止する」という思考に至らない。それからは、まさに「屠殺」だった。iPodの屠殺。まるで殺人を犯しているような気分になった。何度も言うが、約二年付き合ってきた「愛機」なのだ。・・しばらくして、作業を中止したときは、私の頭の中はまさに「思考がフリーズして、まっしろけ」だった。考えるのが嫌だった。
しばらく気分が悪かった。現実問題として、今は亡き愛機の代替機が必要だったけど、新型iPod TouchやAndroidスマホを買う気には、とてもなれなかった。あれこれ考えた挙げ句、殺人犯まるちょうはどうしたか。アップルのサイトに、全く同じ型番のiPod Touchの整備済み中古品が売りに出されていたので、それをゲット。他の機種に走らず、あと数年間同じ機種を使い続けることで、今は亡き愛機の供養とした。一番それが、自分的にはしっくり来るような気がしたのだ。今は亡き愛機よ、安らかに眠れ。ちなみに、この予定外の出費で8月のカードの請求に青ざめたのは、言うまでもない。ちゃんちゃん。
ふたつめ。これは勤め先の診療所であった話。総合内科をしていると、いろんな患者さんがいらっしゃる。50代の女性で、主訴は咳嗽。私が診るまでの経過が、これまたややこしい。先月下旬に同じ症状で、うちの診療所を受診されていた。その時の担当医は、その咳嗽の性状をちゃんと分析されていた。レプリーゼ・・この言葉は恥ずかしながら知らなかった。百日咳に特有の咳嗽のパターンであり、胸部レ線異常なく、百日咳の疑いにて、マクロライド系のクラリスロマイシンとリン酸コデインを処方されていた。しかし、である。この患者さんは、この投薬が効かなかったのね。そこから泥沼の展開となる。苦しい咳が治まらないので、自己判断で他院の呼吸器内科を受診された。それが今月初旬。その呼吸器内科で、なんと「気管支喘息」との診断を受けた。驚き桃の木、である。その流れで、ステロイド吸入、β刺激剤吸入、気管支拡張剤、抗アレルギー剤など処方。・・これで、この患者さんの病状は一気に増悪した。特に夜間など、咳がひどくて呼吸困難感があり「このまま寝たら、死ぬんじゃないか」という恐怖さえあったという。だから、眠ることもできない。そのストレスが、咳嗽を更に悪くさせる。まさに悪循環。
私が診たのは13日。上記のような経過で、一番最悪の時に受診された。胸の音は、明らかに乾性ラ音などは聴取せず。上記の喘息の投薬で病状は悪くなっているので、喘息の可能性は極めて低い。やはり何らかの呼吸器感染症を考えたい。熱は微熱~無熱。とりあえず、レ線の再検と採血。もちろん、百日咳の抗体もチェック。そうして、いったん退室していただいた。・・しばらしくして、一人の中年男性が緊迫した表情で診察室に入ってきた。患者さんの旦那様だ! 奥様の激しくて苦しい病状を見かねて、医師に対して「念押しのひとこと」を言いたかったようだ。その表情はまさに鬼気迫るものだった。「先生!何とかして下さいよ!咳がひどくて、寝たら息が止まりそうやって言うんです!」私は一瞬気圧されたが、これまでの経過と現状の見通しを誠意を持って説明した。こういうのは、まさにガチです。なんとか納得されて、退室。
さて、検査結果。胸部レ線は、やはり異常なし。採血は、CRP陰性、白血球微増。好中球正常値。リンパ球分画正常値。念のため調べたマイコプラズマIgMは陰性。
ここで思考は原点回帰する。やはり一番のポイントはレプリーゼだ。患者さんに再確認したら、やはりそれはその通りだと言われた。コンコンコン!という発作性の咳の後に、ヒー!とい息を吸い込む症状。これを繰り返すレプリーゼ。クラリスが効かなかったのが、もちろん不安ではあったけど、ここは腹を決めた。同じマクロライドのアジスロマイシンを採用。鎮咳剤は、これでもかというほどに、三種類併用で7日分処方した。
さて、そうして本日再診。患者さんは、よくなってました。ホッと一息。採血では、百日咳抗体価が40倍から80倍と著明に上昇(山口株160倍、東浜株320倍)。患者さんの表情には、ちゃんと余裕があり、安堵感が漂っていた。ちなみに旦那さんの姿はなかった。安心されたのだろう。こうして百日咳と診断。念のため、アジスロマイシンをもうワンクール加えて、鎮咳剤もしっかり処方して、いったん治療終了としました。
医師をやるからには、こうした「ガチで対応を迫られる場面」というのが、どうしても避けられない。私自身、苦手なんだけど、こうした場面では、出来る限り患者さんに対して誠意を以て対応したいと思っている。そうして、うまく事が運んだときの達成感は格別だ。今日の患者さんの表情をみて、とても嬉しい気持ちになった。外来でのちょっと嬉しかったことを書いてみました。
以上、近況をふたつほど記しました。