A先生の追悼式に出席して

昨日、過去に大学医局でお世話になったA先生を追悼する会合があった。A先生は医師としてはまだまだ若い年齢で、ご逝去された。とても急なことだったので、その連絡をいただいた時は、すごく驚いた。この「A先生を偲ぶ会」に出席するかどうか、正直かなり迷った。というのも、私は医局からすでに相当離れた人間であり「場に馴染めない」可能性が高かったから。私は医局人事から外れた医師であり、いわば「正規の医師ではない」ということになる。そんな人間が、そうした会合に入り込んでみても、誰とも話が合わないのだ。だから、相当前から医局の同門会や同期会は欠席を続けている。辛抱して出席したところで、結局は惨めな思いをするだけだから。

しかし、A先生には研修医時代に一方ならぬお世話になったいきさつがある。敢えて具体的に言うなら、研修医一年目の冬に私が失踪事件を起こしたとき。私の安否確認など、いろんな先生方が奔走されたと聞いている。A先生も私の空の下宿を訪問されたとか。あの失踪した頃は、もちろん精神耗弱状態だったし、誰に迷惑をかけるとか考える余裕も無かったのだが、A先生をはじめ、いろんな先生にご迷惑をおかけした。とても苦い想い出です。A先生の追悼という意味では、今回だけは出席すべきではないか? K診療所でA先生の診療に付いたことのある、お蝶夫人♪も背中を押した。私としては「怖いけど、目を瞑って」出席確認の葉書を出した。


さて、当日。おそるおそる受付を済ます。O先生がおられたので、ちょっと安心。できるだけ片隅でひっそり時間を過ごすみたいな、そんなことを考えていた。まず黙祷があり、A先生と近しい先生方がスピーチ。とりわけK薬大教授のN先生のスピーチは、胸を打った。生前のA先生の気さくで実直な人物像が活写されているようで、ちょっと目頭が熱くなった。N先生とは、K診療所でご一緒に仕事したことがある。今から思うと、あの時は馴れ馴れしくしすぎた。もっとへりくだるべきだったな。後悔先に立たず。そうして、乾杯の音頭からご歓談の時間へ。

ここで困った。実は貧乏症の私は、13時開始なので昼御飯は出ないものと思い込み、自宅ですでに食べて来ていた。仕方ないので、ウーロン茶を飲んで時間を潰す。もちろん、ぶらぶらしていると、前出のO先生(救急医学教室の教授)と少しお話しできたし、あまりにもしょんぼりと独り座っていたのでちょっと心配されたのか、御大のN前教授が声をかけて下さり、とても恐縮した。ありがとうございました。

でも・・ウーロン茶で独り椅子に座り時間潰しするのも限界がある。会場入りする前に服用したデパスも効いてきたか? 気分は次第に意気消沈という具合になってきた。みなさん、わいわいと社交的な会話を続けておられる。三木清曰く「孤独は一人の人間にあるのでなく、大勢の人間の『間』にある」と。三木清の語る、まさにその状態が現出しようとしていた。私は孤独であり、部外者であり、場に馴染まない者だった。

そうこうして困っていると、ふと「中途で退室してもいいんじゃないか? 今自分が抜けたからといって、誰も困らないだろう」という発想にようやくなって、ウーロン茶を返して、会場を後にした。もっと早くそうするんだった。あの時は、なんか思考停止状態だったな。

帰路、例の如く「いやな寂寥感」が残った。分かっていたけど、改めて再認識した。あの医局に、もうすでに「自分の居場所」はない。もちろん、社交術のなさも大きな要因ではある。元来がパーティー嫌いなのだ。これから同様の集まりがあったとしても、歓談タイムになったら、さっさと食べるだけ食べて、おいとましよう。

自分という医師について、電車に揺られながらいろいろ考えた。学会もろくに行ったことがない。研究はまったくしたことがない。論文ももちろん。医師としての知識のアップデートは、主に日経メディカルと日医の雑誌。気管内挿管は辛うじて出来るようになったけど、CVは入れる勇気なし。俺みたいなポンコツ医者は「正規の医師の集まり」には、顔を出すべきではない。場違いである。ポンコツはポンコツの居場所をわきまえて、生きるべし。そうした自虐的な思考に苦しめられながら、電車の中刷り広告なんかをぼーっと見ていた。

そうした私の中の葛藤はさておき・・ 追悼式を中途退室したまるちょうですが、A先生を悼んで一言申し上げます。医師としてまだまだ若いご年齢で逝かれたことは、無念の至りだったでしょう。心中お察しします。研修医の頃、それほどよく話したわけではないですが、失踪事件の時は、本当にご心配をかけました。すみません。あれから双極性障害という病気と闘い、現在はいちおう一家の主、総合内科医師として頑張っています。上記「ポンコツ」なんて、不適切なことを言ってしまいましたが、ポンコツはポンコツなりに、最善を尽くして、自分の能力を活かしたいと考えています。謹んで、ご冥福をお祈り致します。