アメイジング・グレイス

今回は音楽コラムとして「アメイジング・グレイス」について語ってみたい。よく耳にする曲なわりに、その由来とか成り立ちなどは知られていないかもしれない。というわけで、自分なりに少し調べてみた。作詞はジョン・ニュートン(1725-1807)というイギリスのクリスチャン。賛美歌の一種であり、アメリカで最も愛唱される。まず題名の「amazing grace」とは何ぞや? 直訳すると「驚くべき神の恩寵」ということになる。ここで強調したいのは、その「驚嘆」である。ジョン・ニュートンは実際に驚いたから、このうたを書いて残したのだ。ある時彼は「神を信じることにより、本当に救われることがある」という驚くべき確信を抱いた。そしてそうした体験から、アイデンティティは確立され、視野がひろがる。「恩寵」というのは、その点である。哲学的に言うと、その「驚くべき恩寵」体験により、彼は真に彼自身になったのだ。その「畏怖に似た驚き」を後世に伝えたかったのだと思う。

そういう背景を知りつつ、歌詞の冒頭のみ訳してみたい。正式にはかなり長い歌詞なのだが、よく歌われるのは最初の部分である。

Amazing grace how sweet the sound
That saved a wretch like me.
I once was lost but now am found,
Was blind but now I see.

アメイジング・グレイス・・なんと快い響きだろうか
それは私のような不幸のどん底にいる人も救って下さる
私はかつて道に迷った、でも、もう迷わない
私はものの見方が分からなかった、でも、今は見渡すことができる

さて、このうたの大体の位置づけができたところで、各論に移っていきたい。みっつの異なる「アメイジング・グレイス」をお届けします。

まずはフォークの大御所、ジョアン・バエズに登場してもらおう。



私の「アメイジング・グレイス」体験は、ここから始まった。 まるちょうの持っているのはライブ盤であり、聴衆との和やかな雰囲気が楽しめる。途中からハミングで笑わせるけど、巧みに聴衆とハモってみせて、親密な空気を醸し出している。まるちょうの好きな録音。

ふたつめは、真打ちの本田美奈子。



本来賛美歌であるこのうたに相応しい雰囲気。いやいや、心が洗われるとは、こういうのを言うんだろうな。本田さんは38歳の若さで逝った。病名は急性骨髄性白血病。38歳の誕生日の前日に一時退院を許された際、世話になった医師や看護師のためにナースステーションで「アメイジング・グレイス」を歌った。あんなんされたら、俺泣いちゃうよ。善人ほど早死にするってのは、本当なのかな。

ラストは、とびきりファンキーに! ヴィクター・ウッテンの登場だ。



賛美歌という本来の形からは遠ざかるけど、人の心を鼓舞し熱くさせるという意味では、全然ありじゃないかと思う。この人のベース・ソロはまさに鳥肌もので、超絶技巧でありながらハートはちゃんと込められている。歌心がちゃんと秘められているというか。メカニカルに堕ちてしまうと、音楽はダメ。ヴィクター・ウッテンは、そのあたりの外してはならないキモをしかと押さえている。ある意味「なんと快い響きだろうか」ということになる。ジョン・ニュートンの魂は、ちゃんと入っているのだ。ずばり、素晴らしい演奏。

以上、「アメイジング・グレイス」について語ってみました。