課長 島耕作(3b)

前回に引き続き「島耕作のセックス」について。今回は特に「まっとうでない性愛」の描写について考えてみたい。

ひとつめは、第7巻の「My Funny Valentine 2」より。島本人は出てこないんだけど、大町久美子の14歳の時の出来事が興味深い。ちょっとした悪戯心から、大人の異常な性愛を垣間みて「濡れる」という感覚を初めて知るというくだり。

自分の母が、老紳士二人に弄ばれる。二人の男性は、ハツシバ創業者の吉原初太郎と現在の木野会長である。久美子の母は、高齢にてインポテンツの吉原に側から視姦されながら、木野との性行為に耽る。そんな「大人の隠密の光景」を押し入れの中から覗き見る久美子。覗いている自分が逆に見られているような気がして、性的興奮を知るに至る。

ここは、一人の女性を軸として、大会社の初代と二代目の会長が結びつき合っているという、凡庸な頭では思いつかないような構造である。これぞまさに、ビジネスの中にセックスが介入している構造だよね。こうしたことって、現実にはわりとあることなのかもしれない。心底から信頼し資質を認めている人間に、自分の「女」を授け渡し共有する・・まぁ、もちろん想像の世界に過ぎないんだけど。まるちょう的には、日常の狭間に潜むインモラルだけど、むしろ現実的とも思える風景に映った。

ふたつめは、第5巻の「Alone Together」から。島と同期入社の斉藤が、久しぶりに訪れる。昼飯を一緒にするが、その席で斉藤の妻が「白血病の末期で、あと一ヶ月もつかどうか」ということを知る。更に彼女曰く「ある男性をずっと好きで、死ぬまでに一度逢っておきたい」と。その男性とは・・島課長なんだね、これが。10年以上も前に島が独身の頃、半年ほど付き合ったことがあった。しかし、島にとってはあくまでも遊び。結婚など考えてもいなかった。彼女は本気だったのに・・

入院先の病院で再会した彼女は、見る影もなくやつれ果てて、島は挨拶の後の言葉が出てこなかった。彼女は「私は夫に感謝している。最愛の人だわ。でも、せつない思いになるのは、今でもあなただけ」と告白する。そうして「ねえ! 私に触れて」と切願する。

・・病院から駅まで一人で歩く道すがら、島は病院での出来事を回想するのだ。「あの時、彼女は濡れていた・・俺達は、最後の関係を持ったんだ」

これは一体セックスなのか? 挿入はない。あからさまな愛撫もない。口づけさえない。しかし「死に直面する」という孤独感をいたわる心根と、女性の性器に触れるという行為があれば、まるちょう的には、セックスと言っていいんじゃないかと思うんだよね。まさに「最後の関係」だったと思う。死ぬときは誰もが独りで死ぬ。タイトルの「Alone Together」は「孤独と一緒に」という意味。彼女は、島との「密かな繋がり」を胸に抱いて、一ヶ月後に亡くなった。このエピソードは、弘兼さんの「死と孤独へのせめてもの祈り」が込められていると、まるちょうは感じる。一人の医師として、弘兼さんの作意に大いに共感するところです。

さて、次回は#4島課長のキャラ分析で締めくくります。