課長 島耕作(3a)

引き続き「課長 島耕作」について。#3の「島耕作のセックス」というお題で語って
みたい。本作は男女関係抜きでは語ることはできない。むしろ、ビジネスと同等の扱いがなされているように思う。セックスとは「人と人の繋がり」そのものだから、当たり前といえば当たり前だけど。さて、まるちょうは現在、フロイトを読んでいる最中です。フロイト先生が「課長 島耕作」を読んだとしたら、大いに賞賛すると思うんだけど。「精神分析入門」の序論から次のような部分を引用してみる。

性の欲動が解放され、その本来の目標に立ち返る時に引き起こされる文化の脅威ほど危険なものはないと世間は信じこんでいます。社会は、社会の根底を成すこのきわどい部分にふれるのを好まず、性の欲動の強さが公認されて、個人に対しても性生活の意味が解明されればいいというような関心は全然もっていません。むしろ、教育上の意図にもとづいて、人々の注意をこの領域全体からそらしてしまうという道をとってきたのです。

 

つまり、弘兼さんがセックスを社会生活の一部として、恥じらうことなく、むしろ雄弁に描いているのは、表現者として優れている点なのだ。ビジネスとセックスが同じフェイズで描かれている。だからこそ、ストーリーに力があるし惹き付けられるんだと思う。

「島耕作のセックス」という観点からは、かなりのシーンが候補に挙がった。なので、急遽さらに二回に分けて記したい。今回はまっとうなセックス。やはり、なんといっても大町久美子との初エッチは外せないだろう。クリスマスイブに久美子から食事の誘い。場所はシティホテルのレストラン。島はしたたか飲んで、久美子からのプレゼントを受け取る。中身はなんと、客室のキー。島は一瞬「え!?」となるが、次のページでは画像のように見開き2ページぶち抜きのクンニリングス。 やれやれ。これ、初出は週刊モーニングだったんだけど、電車で読んでた人、おったまげただろうな。まるちょうだったら、咄嗟に隠して口笛でも吹くだろう。大町久美子とのセックスは、その後も放縦で淫靡な交わりを見せつける。弘兼さん自身も第3巻の「絵コンテ集」で次のように述べている。

僕は濡れ場を描く時は出来るだけエロティックに表現しようと思っている。もちろん表現方法には制限があるので、浮世絵のように堂々とは描けないが、状況とかせりふとかで情欲世界をより官能的に描きたいと思っている。

さて、大町久美子とのあからさまな情欲世界と対照的なのが、12巻のフィリピンの有能な秘書、ローラとの愛である。彼女の有能さを十二分に認めた島は、東京での研修の道をつけてやる。彼女が紛れもなく、これからのフィリピンを背負って立つ人物だと考えたからだ。自分を認めてくれ、そして育てようとする島に、好意を持つのは自然なことだ。東京で研修中のローラを世話するうちに、暴漢に襲われて怪我をし、ホテルの一室に二人一緒になる。その時の雰囲気を作中の言葉で表すと・・

光が無くなると同時に俺達の言葉も消えた。ピンと張りつめた糸のように緊張した空気が部屋を支配した。もしこの糸が切れてしまったら、一気に次の情況へなだれ込む・・そういう情況だった。

しかしこの場面では島は、ローラを抱かない。理屈では、部下を育てる上司として当然なんだけど。ローラもとても理性の優れた女性なので、一線を越えないように自分を抑えている。二人とも、その暗黙の了解を熟知しているからこそ、しっかり心理的な距離をキープしたまま別れる。
最後の島の「完璧なプラトニック・ラブを全うしようと思った」という科白は、キザだけどばっちり決まっている。やられた~という感じ。ここは「課長 島耕作」の堂々たる名場面のひとつだと思っている。

ある時は獣のように淫らに、ある時は理性的な紳士として、状況に応じて180度変化できる柔軟さが、島耕作の本領だろう。現実にはこんな人、なかなかおらんと思うけど(笑)。

さて、次回はまっとうでないセックス。#3bとしてお届けします。