課長 島耕作(4)

引き続き「課長 島耕作」の感想。最終回は#4の「島耕作のキャラ分析」というお題で語ってみる。

一番印象的なのは、第9巻のこのシーン。大町愛子に呼ばれて神楽坂の小料理屋へ。 そこで、自分が仕掛けて失脚するに至った苫米地と鉢合わせになる。愛子は、戦いの後で男たちが威信に満ちた儀礼としての挨拶をするものと期待していた。しかし、いざその場面になって島から出た言葉は「申し訳ありませんでした」・・勝者なのに、謝っちゃうのね。そして、自分でも咄嗟に口からでた言葉にあきれかえる。そして愛子からの言葉「あなたは情けない男だけど嫌いじゃないわ。久美子と別れたら、私を抱いてね」→島の反応がケッサクである「え? はい いや・・」ここも名場面のひとつで、島耕作のキャラが存分に現れている箇所だ。

さて、島耕作という人物。まるちょうにとっては、共感する部分と「かなわない」と思わせる部分が混在している。

共感できる部分→弱者や敗者へのいたわり、派閥に入らない、誠意をもって仕事にあたる、対人的に曖昧なところ、自分に正直、不器用なところ

かなわない部分→恐ろしいほどの強運、絶倫性、なんだかんだいいながら組織でうまくやれていること、時に見せる毅然とした態度

一番思うのは、やはりその「一貫性のなさ」である。とても矛盾した属性が混在したキャラだと思う。 一貫性のない人間の成功って、漫画的と言えるんじゃないかな? 島耕作成功の陰には、その類い稀なる強運と、私立探偵の木暮の存在がある。探偵はともかくとして、強運はリアルな人間が逆立ちしても真似っこできない。

さて、「サラリーマンの鑑」のように祭り上げられる島耕作だけど、これだけははっきりしておきたい。つまり「家庭人としては、まるきり失格」ということ。第1巻の冒頭で島は課長昇進の内示を受ける。翌朝に妻に話そうとするんだけど、自分で止めてしまうのだ。夫の昇進を喜ぶはずがないと、自分で決めてかかっている。そこに、すでに夫婦の冷たい溝を感じてしまう。

本作の冒頭から島の奥さんは冷淡なんだけど、おそらく、もともとの原因は島本人にあると思うんだよね。要するに、島の浮気。そうした匂いを、女性というやつは鋭く嗅ぎ分ける。特に島の奥さんは、そういう変化にとても敏感なタイプ。頭のいい女性なわけです。第2巻で、島の妻曰く

女にとって男は、社会的にいかに認められているとか、いかに稼ぎがいいかとか、そういう価値よりも、家族が築きあげる小さなテリトリーで、どれだけいいお父さんであるかということの方が、ずっと大切なの。

一方島の方は第1巻において曰く

考えてみれば、俺は会社にも国家にも特に忠誠心はない。気付かなかったことだが、大方の日本人がそうかもしれない。(自分の家族にも、忠誠心があるのかといえば)情けない話だが、極めて曖昧だ。

だから、島耕作をひとことで表現するとすれば「自由人」あるいは「徹底した個人主義者」悪くいえば「ボヘミアン」なんだよね。こうしたタイプの人が結婚することほど愚かなことはない。それを自認しているからこそ、大町久美子との再婚も考えなかったわけ。

最後に、一番好きなコマを載せて終わる。まるちょうは41歳だけど、やはり「胸がキューンと熱い人生まん中あたり」でありたいと思う。

以上、五回にわたり「課長 島耕作」を語ってみた。愛着のある作品なので、Blogで表現するのにあれこれ没頭できて、幸せだった。今度はまた弘兼さん絡みで「人間交差点」を全巻取り寄せて読み込もうかと思案中です。いつになるか分からないけど・・(笑)