A Love Supreme

このCDを聴いて。今回は、いよいよジャズを取り上げてみる。しょっぱなは「A LOVE SUPREME(至上の愛)」(John Coltrane作)です。いきなり小難しいのやっちゃうぞ!(笑) John Coltraneは、1950から60年代に活躍した孤高のテナー・サックス奏者である。このCDを初めて手にしたのは、学生の頃だったか。とにかく、何に惹かれたかって、このジャケットのColtraneの目つきだわな。写真を拡大して、たんとこの表情を眺めて欲しい。男に生まれたからには、一生に一度くらいはこんな目つきしたいと思わない? 獲物を求めてギラギラ光る双眸。でも、この人の場合の獲物というのは、ありふれた具体的な物ではない。とても抽象的で、形にできないもの。だからこそ深いし、男性的なのだ。



まるちょう的な解釈では「A Love Supreme」のLoveは、いわゆる一般的な「愛」ではなく、ギリシャ哲学におけるプラトンが唱えた「エロス」に通ずる「愛」だと思っている。「音楽におけるイデア」を死ぬまで追求した人だった。だから、一種宗教的な色合いがある。確信された上昇志向。

だから、この作品は「やる気が充実して、今まさに動き出そうとしている時」に聴くといいと思う。気持ちが前向きでないなら、この曲は聴くべきでない。澱んでいるときに聴いても、ただうるさいだけだ。そして、聴き終わると、結構疲れる(笑)。まぁ、BGMでは使えないだろう。存在感がありすぎるから。なんて言うんだろう? 熱情的なんだけど、どこか醒めている。静寂感があるといえば近いか。

この作品は、Coltraneの晩年の生き様をそのまま象徴するものだ。まさに重戦車のように後ろを振り返ることなく、ゴリゴリと邁進した。その頃の実際の演奏の様子を見ても、一心不乱にテナー・サックスを吹きまくる姿は、ほとんど神懸かりだ。何かに取り憑かれているようでさえある。ただ、その急進性ゆえに長生きはできなかった。この演奏を録音した3年後の1967年に40歳でこの世を去っている。

ジャズの初心者の方には、このCDはお薦めしない。本作はどちらかといえば異端に属するだろう。第一、あまり楽しんで聴けない。ぶっちゃけ楽しむために作られた音楽ではないから。では、本作の対象リスナーは?・・ズバリ「行者」でしょう。正座して聴きましょう(笑)。楽しみたい方は「Ballads」とか「Crescent」などから入ることをお薦めする。

上昇する時の、力強さや緻密さ、そして神々しさが、なんといっても本作の魅力だろう。まるちょう的には、身を削ってまでして上昇はしたくない。でも・・あんなギラギラした漢(おとこ)の眼差しを、いつも密かに持って生きたいと思う今日この頃です。