俗物図鑑/筒井康隆

俗物図鑑」(筒井康隆著)という作品を読んだ。「俗物」ってなんだろう?という素朴な疑問から、本書を手に取ったのだが・・ 結論から言うと、あまり楽しめなかった。読んでいて、ある意味苦痛だった。辛抱して最後まで読み切った時の、ホッとした気持ちと言ったら!(爆)


「俗物」とはなんぞや?辞書を引いてみると「名利にとらわれていて、無風流な、くだらない人間」と記されていた。一方、私なりの定義を記すと「自分の本能のままに欲望を満たす人で、自分ではそれを全然自覚していない人」ということになる。作中には、放火、麻薬、盗聴、横領、出歯亀、性病、カンニング(まだまだいっぱいある)・・いろんな俗物が登場する。しかし彼らには、上記の定義の中でひとつだけ異なる部分がある。それは「自分が俗物であることを、ちゃんと自覚している」ということ。つまり確信犯なのだ。その強い意志でもって、あらゆる「理路整然としたもの」をやっつけていく。つまり、評論家、警察、PTA、道徳、法律、健康等々。言い換えれば「悪への志向」だな。最後は自衛隊まで出動して、俗物たちの組織「梁山泊」は凄絶な最期を遂げる。

これはいわゆる「ドタバタ文学」であって、楽しめる人と楽しめない人が存在します。良い悪いじゃなくてね。私なんかは、文章を読み直す癖があり、どうしても「重い」読み方をしてしまう。こうした作品はむしろ、できるだけサッと流すように読むべきだろう。そしておそらく、いわゆる「真面目な人」には向かない。物事の本質にまっすぐに向かおうとする人は、楽しめないだろう。むしろ、いわゆる「斜に構えた」人は、楽しめるに違いない。つまり「本質から逸れることにカタルシス(精神浄化)を感じる人」である。ちなみにAmazonのレビューでは、軒並み星五つなのである。「欲望を抑えて生きることに、いい加減嫌気が差している人」にとっては、おそらく快作なんだろうな。そういう意味では、私にとっては時間の無駄だった。再び筒井康隆の作品を手にするのが、ちょっと怖い今日この頃です(苦笑)。