キッチン/吉本ばなな

キッチン」(吉本ばなな著)を読んだ。これは吉本さんが27歳の時の処女作であって、読んでいて、いろんな意味で「若い」印象を受けた。文面から誠意がとても伝わってくるけど、リラックスしきれないというか。遊び心というか、もう少し余裕があってもいいのでは?と思った。でも、とても真面目で心の温かい人だろうと想像できる。

たった一人の身寄りである祖母が亡くなり、天涯孤独の主人公みかげ。「天涯孤独」という暗くて辛いイメージからはほど遠い、ほんわかとした雰囲気で、いろんな出来事が綴られる。「ほんわか」というのがとても大事であって、「悪」をしっかり持っている人なら、もっとイライラした焦燥が表に出るだろう。多少なりとも、他人に当たることがあるに違いない。みかげは悲しみをとことん内向させる。全く自分のものとして、その大いなる悲しみを受け止めようとする。人生の一大事に「ほんわか」としていられる「善」の性質は、とても他人とは思えない。


さて、その後の筋としては、学友の田辺雄一とその母(実は父)のさりげなくて温かい助けにより、みかげは文字通りのどん底から、ほのかに光を見いだしていく。

まるちょうの心が一番共鳴したのは、バスの中でみかげが号泣する場面。祖母の死で凝り固まっていたみかげの心が、一気に氷解していく様を見事に描写していて、まるちょうは正直鳥肌が立った。深すぎる悲しみに直面すると、人は泣けない。涙が出ずに、心が凝固してしまう。心を許せる何かを前にした時はじめて、固まった心は溶け出して、涙が出る。一旦出だすと止まらない。わんわん泣く。そうして、ようやく精神に癒しがもたらされるのである。まるちょうとしては、水口食堂のトイレ(謎)で号泣したのを、懐かしく思い出すのです。

もうちょっと成熟した吉本ばななも読んでみたいと思った。村上春樹以外のお気に入りの作家を、どんどん発見したいです。次は何読もうかな~?