まったく病態がイメージできなかった、悔しい一例(まるちょう診療録より)

僕は普段から、自分なりに総合内科の勉強はしている。系統的な勉強じゃないけど、引っかかりのある症例について、自分なりにEvernoteにまとめるとか。今回遭遇した病気は、初めてだったけど、自分なりにはまとめていた病気だったので、K医科大学付属病院の先生から「正解」を示されて、ちょっと悔しく、また自分の力不足を痛感した。

50代の男性。4月初旬に当院の発熱外来を受診。39度の熱発あり。インフル・コロナ迅速検査は陰性。このときは、皮膚が全体にチクチクするという症状があったけど、原因ははっきりせず、いったん帰宅。

それから10日後、僕の外来を受診された。とにかく熱が出る。38度〜39度。両脇とか両腰のまわりの痛み。右の眼球が痛い。上や下を見ると眼が痛い。前回の受診から、皮膚科を受診し、帯状疱疹ではないと言われた。抗菌剤処方されるも、効かない。その後、膠原病、リウマチクリニック受診。PSL4mgなど処方されるも、あまり変わらない。診察では、体幹部に皮疹なし、顔面もNP。まだ、採血とかCTなどの検査は受けていない、とのことだったので、実施してみる。

検査結果。採血は問題なし。炎症反応がいちばん重要だけど、陰性。WBCも正常域。頭部〜骨盤までの単純CTを撮影したが、特記すべき所見ないと思った。この時点で、迷路に入ってしまった。診断につながるイマジネーションが、ぜんぜん湧いてこない。神経痛だろうか? 肋間神経痛や三叉神経痛などを念頭において、リリカを処方してみる。しかし、この理路は、発熱に関しては、まったく説明できていない。患者さんがいちばん苦しんでいるのは、高熱なのだ。

それから4日後、再診。38度〜39度の熱は不変。右眼が痛い。右眼の周囲も痛い。視力低下あり。かすむ感じとのこと。両眼の視力低下。咳もあり。右のおでこ、こめかみが一番痛い。右あごのあたりも痛い。リリカは効果乏しい感じ。

この辺りで、敗北感がただよってくる。患者さんは、大きな施設に紹介してほしいと言う。確かにそれが正解だ。僕に診断する能力がないんだから。K大病院に紹介状を書いたが、あそこはなぜか「総合内科」という診療部門がないのね。K医科大学病院なら、ちゃんと総合内科がある。というわけで、そちらへ行ってもらった。

後日、K医科大学総合内科のM先生から返信をいただいた。僕が「敗北感」を抱いた症例だったが、そこには確かに「診断名」が記載されていた。いわく「巨細胞性動脈炎」と。僕は思わずのけぞったね。別名「側頭動脈炎」とも呼ばれる。Evernoteにもまとめていた疾患だったけど、1秒も頭に浮かばなかった。なんという悔しい・・

K医科大学総合内科では、まず眼科診察をされたようだ。そこで著名な視力低下を確認し、視神経の虚血を疑う所見を認めた。側頭動脈炎の一割くらいに、網膜中心動脈の障害に伴い、視力低下が生じるケースがある。また、造影MRIで右側頭動脈の造影効果認め、側頭動脈炎に矛盾しない。視力低下を呈するケースは、失明になってしまうリスクがあるので、確定診断(動脈の生検)を待たずにステロイド・パルス療法を開始(膠原病科へ入院)。これは鉄則である。

本症例では、高熱がでる割にCRPが陽性にならなかった。そして発熱がメインで、「こめかみの痛み」は、いちおう訴えられていたが、流してしまった。側頭動脈炎といえば、こめかみの痛みである。こんなに発熱と視力障害が前面に出るとは、思っていない。K医科大学病院の先生に感謝したい。うちは眼科がないので、手がかりになる情報は得られなかっただろう。それにしても、勉強になる症例でした。実地と教科書は、ぜんぜん違うと感じた次第です。