Blogネタがねえなーと思案にふけっていると、ふと「そうや、診療録ものがあった!」となる。いつも従事している、あれこれを、ふとやり過ごしてしまう癖。いろいろな症例にぶつかり、その都度、頭を悩ます。いろいろあるんですけど、今回は二つに絞って語ります。
ひとつめ。19歳の男性。母と同伴。昨日からお腹が痛い。かるい嘔気あり、嘔吐なし。下痢なし。今朝はご飯を食べていない。下腹部ぜんたいがだる痛い。体温37.1度、腹部触診は、マックバーニー点からやや内側にかけて(つまり正中寄り)に圧痛あり。反跳なし。腸雑音はやや減弱とみた。
いわゆる「胃腸炎」からは、もちろん外れる。若年だし、憩室炎も考えにくいか。やはり虫垂炎を除外したい。採血と腹部CTをオーダー。採血はWBCは正常域、CRP1.84くらい。CTは・・ 僕は虫垂炎をちゃんと読影する力量はないです。典型的なものなら分かるが、、 ただ、この症例は回盲部を精査して「虫垂の腫大」「糞石」などの所見はないと思った。
さらに問診を加える。昨日の夕方にサーモンの刺身を食べた。上腹部に殴られたような痛みあり、嘔気もあったと。ふむふむ、これはアニサキスじゃないか? その時は診察での下腹部圧痛のことは忘れていた。抗ヒスタミン剤を処方して帰宅OKとする。以上が昼ごろの出来事。
午後の診察中に「先生、午前のCTで至急報告が入ってます!」と一枚の紙を渡された。そこには、放射線科Drが「これは虫垂が分かりにくいのですが、7mm程度に軽度腫大、先端に結石あり、内部airの消失、先端部の周囲に軽度脂肪織濃度上昇、骨盤底に少量腹水を認めます。虫垂炎の疑い」と記載されていた。「アニサキス」は、まったくの誤診であった。
今回の症例は、普通の内科クリニックでは診断が難しいと思う。CTを使えて、それを放射線科Drが読影したから、正確な診断ができたのだ。よくあるケースで、こうした偏位した虫垂炎が見逃されて破裂し、膿瘍化して緊急の開腹OPになってしまうことがある。今回は初期で発見できて、ホッとしました。T診療所の強みですね。
長くなりますが、もうひとつ。91歳の女性。老健施設から紹介。主訴は37-38度の発熱、倦怠感あり。コロナ抗原テストは何度もしていて、陰性。胸部CTで、右肺優位に胸水貯留あり。かなりの量の胸水である。
採血ではWBC正常域、CRP1.21、LDH364、ALP208など。CTにて、腫瘍性病変はなし。感染性胸膜炎には違いない。結核の鑑別がやや面倒だが、軽度肝障害もあったり、まずはマイコ胸膜炎の見立てで、MINO200mg/日で開始。いわゆる「診断的治療」というやつです。MINO200mgは多すぎたらしく、嘔気や食思不振が出たので、100mgに減量して投与。91歳だからね。
一ヶ月後のCTは、右胸水はやや減少、採血もCRP陰性。MINOに反応していると考えた。MINO100mg継続で。
さらに一ヶ月後、CTで、右胸水は消失。左は少し残る。
さらに一ヶ月後、左胸水も消失。
マイコ胸膜炎は、ほぼ治癒で。MINO終了とした。本人様も、倦怠感はなくなり、元気になったと笑顔。その後、特養へ移っていかれた。あの多量の胸水があったならば、特養入所は可能だっただろうか?(結核感染の可能性など) わりといい仕事ができたと思っています。