ちゃんと診断するのに九ヶ月かかった症例(まるちょう診療録より)

総合内科をしていていつも思うのですが、患者さんは自分の症状を分析的に説明できる人ばかりではない。自分の辛い症状を「そのまま」言われることが多い。われわれ総合内科医は、その「そのままの言葉」にいかにプロファイリングをしていけるか。ここに重心がかかっている。逆にその患者さんに対して「これはこうだろう」と、症状に対する興味がなくなってしまうと、それ以上の展開はなくなる。「ヤブ医者」はだいたいこうだけどね。

今回は僕がほぼほぼ「ヤブ医者」だったという話です。今年の1月に70代女性が当科を受診された。主訴は昨年暮れからの動悸、息切れ。体動時にそうなる。痩せた心配性の方で、話が長い。胸部レ線と心電図は問題なし。心臓神経症としてリーゼ(軽い安定剤)を処方。手指がしもやけ著明だったので、冷えに対する漢方も処方。

2月。動悸がだんだんひどくなってきた。動いたらしんどい。リーゼはその時は効くが、動くと同じ。採血にてCRP 0.58と陽性。あれ?器質的なものなのか? 心気的なものを想像していたので、混乱する。加味逍遙散ためす。

2月中旬。歩くのもヒーヒー言う。休み休みで歩く。頭がぼーっとする。体がシャキッとしない。加味逍遙散は眠くなる。ふらつきが困る。眠気が強い、昼間も眠い。1月に比べると悪くなっている。CRP陽性が頭にこびりついている。器質的病変を除外したいので、頭部CTチェック → 問題なし。耳性めまいの遷延? 疾患がイメージできない。

2月下旬。胸腹部CTチェック → 明らかな悪性所見認めず。心エコーも左室機能、特に問題なし。自律神経的な病態? 苓桂朮甘湯ためす(耳性めまいの遷延を疑い)。

3月。あんまり変わらない。生活歴について聴いてみる。ご主人と二人暮らし。デイサービスで働いている。睡眠、食事はふつう。心配性、神経質なところはある。不安感つよい。歩いたら、心臓がもたないような気がする。心臓は大丈夫です、歩いてください。一日3000歩以上あるきましょう。

4月以降、リーゼ少量投与で経過をみていた。漢方は効かないとのこと。しつこい倦怠感について、慢性疲労症候群を疑い、補中益気湯出してみるが、効かない。

さて、ここまで来て、この70代のMさんは、自分の中では「しんどい、しんどいと言われるが、検査でどこにも異常なく、不安感が強くて不定愁訴感のつよい人」という人間像が出来上がっていた。とにかく話が長くて、出口が見つからない。「あ、また来た・・」という塩梅である。今思うと、本当に申し訳ない。不安感の強いMさんの中に、ちゃんと犯人は隠れていたのだ。僕がその「犯人」を、ちゃんと探し当てられなかっただけだ。下手くそ。

そうして迎えた10月初旬。相変わらず「しんどい、動悸と息切れあり、ここ最近しんどい」と言われる。心不全ではないと思うが、また胸部レ線と心電図を取ってみる。またもや検査は異常なし。でも・・ポロッとこぼされた言葉が引っかかった。「動作がスムーズにできない。体が重い。歩行が不安定でこけそう」

あれ?と思った。これって、錐体外路障害では? 試しに歩いていただく。小刻み歩行の傾向ありだと思った。手指の振戦も少しある。▶︎パーキンソン病(症候群)の疑いでは?
目から鱗がボロボロ落ちた。脳神経内科へコンサルト。

脳神経内科の診察:仮面様顔貌、寡動、固縮、歩行障害あり、パーキンソニズムの鑑別のため、頭部MRI、DATscanを予約。PDと診断できれば、治療開始を判断。

つまり、みる人がみれば、パーキンソンなのです。なんちゅう遠回りな。Mさんの性格的な傾向も診断を困難にしていたかもしれない。「しんどい」という言葉に対して、どれだけの「光」を当てることができるか。そういえば、パーキンソンの人って「しんどい」と言われるよなー それは体が重いことからくる「しんどさ」である。検査ばかり見ていると、患者さん本人を置き去りにしてしまう。答えは患者さんの中にある。最終的にはよかったけど、自戒となる症例でした。