患者さんが自分の症状を正確に医者に伝えるという技術は、簡単なようでわりと難しいと思っている。おそらくそこには「論理性」という要素が、大きく関わってくる。超高齢の方などは「自分がどういう症状で、どれだけ困っているか」を、正確に伝えられない患者さんがいる。医療者は、そうした患者さんの訴えを「単なる愁訴」とみなすか「精査すべき」とみなすか? そこでその医療者のセンス、カンが試される。勉強とか経験とかあるけど、最終的にはそうした一切の「勉強とか経験」をジューサーでガーッと砕いて、ギューっと絞り取って凝縮したもの・・これこそが「センス、カン」であると、僕は思っている。
70代後半の男性。ふだんは僕の外来で高血圧、軽度肺気腫(75歳で禁煙)で定期的にフォローしている。奥様が解離性大動脈瘤でRC2病院に通院あり。奥様の介護で、ストレスは常にある。今年の1月の初めに左側胸部に痛みがあった。1月7日に当院総合内科に受診されている。かなり痛かったが、僕の外来は大混雑で、ベテランのM先生の内科外来へまわされた。カルテ記載には「胸が痛い、間欠的ですぐにおさまる。左下にして寝ると、左胸がじわっと痛い。ものをのむとじわっと違和感と痛い感じあり」とある。以前、PPIを内服していた。現在キャベジンを飲んでいる。M先生は、GERD的な病態をイメージされたようだ。検査として、心電図、採血、GFをオーダー。最終のGFは2018年4月11日で、胃体上部〜中部大弯後壁に潰瘍瘢痕を指摘あり。とりあえず、タケキャブ20mgを処方となる。
2月4日M先生外来再診。左胸部の痛みは改善した。タケキャブ20mg効果ありとして、10mgへの減量チャレンジを指示。ちなみにGFの所見は「GERD軽度あり。胃粘膜は萎縮+腸上皮化生の範囲が広く、HP除菌後でも発癌リスクが高い症例であり、できれば毎年のGFフォローを推奨」とのこと。
3月18日が僕の定期外来受診日だった。1月初めのエピソードを改めて説明される。左側胸部に痛みがあった。それもかなり強い痛みだったと。今はどうもないと。僕の第一印象は、肋間神経痛だった。そして気になったのは1月7日の対応で、胸部レ線がチェックされていないのが気になった。今思うと、昨年10月9日に胸部レ線は撮影されていた(ただし、正面像のみ)。M先生は、これを見て、胸部レ線の再チェックは蛇足と思われたかもしれない。ただ、実際に左胸部の痛みであり、単純レントゲンくらいは撮っておいてもいいか、と判断した。患者さんも同意された。
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さて、翌日にCTの説明。僕のイメージではまだ「念のため」だった。肋間神経痛をメインの診断にしていたが、CTの画像と放射線Drの記載をみて驚いた。れっきとした胸部下行大動脈の解離性動脈瘤であった(最大径 54mm)。おそらく本人様としては、今年1月初旬の左胸の痛みは相当なものだったはず。ただ、もともと辛抱強い人なのだろう。あるいは、忙しい日常の中に「激痛」が忘れ去られた可能性あり。大動脈破裂を免れたのは、ほんとうに幸いであった。なんといっても、ご主人が奥様の世話をしているのだから。
かくして夫婦で解離性大動脈瘤という珍しい結果となり、奥様が通院するRC2病院の心臓血管外科へ紹介となった。紹介状を書いている中で、左上肺野に「索状影を伴うコンソリデーション」という病変があり、これも2024年1月16日と比較すると、明らかな増大あり。あくまでも心臓血管外科への紹介だが、備考欄に「LKの可能性もあり、可能でしたら貴院呼吸器内科で精査していただけると非常にありがたいです」と付け加えた。75歳で禁煙されているが、やはり肺はすでに高度気腫肺であり、大動脈解離もLKも、すべてタバコに絡んでくる。RC2病院での加療がうまく行きますように・・祈るのみです。老老介護って、本当にきついよね。