今度の色鉛筆画は、これで行きます

二月初めから、ある写真をモチーフに下絵を描いていました。それは他でもない、里見香奈女流五冠の若い頃。一見、単純な写真のように見えますが、これがなかなか深いんです。


写真というのは、一瞬を「盗む」ようなものだと思う。これを撮影したフォトグラファーは、優秀である。里見さんの人格まで映し出している。おそらく激戦の最中(あるいは感想戦?)だろうか。唇は乾燥し、やや開いている。そうして、メガネはややずれている。盤上に注がれる視線は茫洋としているが、揺るぎはない。「茫洋」というのは、頭脳にある膨大な読み筋をアセスメントする作業から来ている。眼は盤上を見ているようで、見ていない。そこにあるのは「集中」という名の荒野。

この写真のキモは、少しうつむいているところ。美しい瞳をされていると思う。下絵は、かなり苦戦しました。何度も書いては消してを繰り返したので、紙が持つかどうか心配です。あ、そうそう、里見さんの人格の話ね。ひとことで表すならば「誠実」かな。将棋は「考えるゲーム」です。彼女は「考える」という作業に、まさに没頭している。だから、この写真は棋士として、まさに誠実な表情を切り取っている。

先ほど、「荒野」という言葉を使ったけれども、彼女がこの「考える仕事」のために、何を犠牲にしてきたか。それは正確には本人にしか分からないけど、それは相当な覚悟のいることだ。たとえ彼女に、将棋に関する豊かな才能があったとしても。この写真は、そうした彼女の固い意志を感じさせる。


以上、いろいろ書きましたが、そうした「質感」を出せるかどうかは、自信なし。でも、下絵はこんなものだろう。これ以上やると、紙が持たない。これでも下絵としては、描きすぎだと思ってます。これだけ下絵でぶれるのは、やはりこのモチーフが深いからだと思う。二月末から色づけしていきます。三月いっぱいまでに出来上がれば、よし。その辺りを目標に、楽しみながらボツボツ頑張ります。