症状が乏しくて、診断を誤ることがある。もちろん、いつもうまくいく症例ばかりではないのですが、いわゆる「エアポケット」みたいな場所にハマってしまって、診断が遅れることがある。これはそんな、ちょっぴり心残りな症例。
50代女性。12月中旬から発熱。朝は熱がなく、夕方から37-38度の熱。頭痛あり。咳や痰はなし。コロナワクチンは二回すみ。診察では、咽頭部発赤なし、扁桃腫大なし。頚部リンパ節触知せず。COVID除外目的でPCR検査実施。結果は陰性。
3日後、再診。熱が収まらない。やはり夕方以降に38度までの熱。頭痛もあり。心配とのことで、採血は実施しておく。WBCは正常域、CRP4.47、軽度肝障害あり。ん、肝障害? 異型リンパは出現していないが、伝染性単核球症など? この年齢だと、サイトメガロウイルス感染症などだろうか? いずれにせよ、解熱鎮痛剤で対応を。
さらに10日後、再診。やはり熱が下がらない。ちょっと咳が出てきた。もともと咳喘息の既往はあり。やはり本人様、心配とのこと。採血もう一度してください。うーん、何度やっても同じと思うけど。。 こういう時、僕は患者さんの希望を優先します。せっかく受診されてるんだし。伝染性単核球症で、熱が三週〜四週くらい続くことはあり得ると思う。でも、やや長い印象もある。
結果的には、採血してよかった。病像の本質に迫るきっかけとなったので。まず、前回と違う点。WBCが13800と増多している。あれ? なんで増多しているの? 好中球は正常域。よく見ると、好酸球が著明に増えている! 異型リンパは0%となっている。その時はまだ「この症例は伝染性単核球症だろう」というAnchoring bias(最初に考えついた診断に固執)に陥っていた。白血球分類がフローサイトメトリ(自動分類)だったので、機械が異型リンパと好酸球を取り違えたのだと思ったのだ。すかさず、技師さんに目視での測定を依頼。この時点では「どうせ伝染性単核球症だろ」とたかを括っていた。
その日の外来は、この患者さんが最後。診察室に入っていただき、ゆっくりと結果説明していた。そこへ技師さんから「やはり好酸球です」との報告。患者さんの面前で、プチパニックとなる。これが好酸球なら、診断が根底からくつがえる。ここで患者さんと顔を見合わせた。おっとりした方で、本当のところ、とても助かった。でも、どうしよう・・
この方、画像的な検査はまだ一度もしていない。咳は少しある。肝障害も前回より悪め。胸腹部CTをしてみては? 被爆もあるし、お金もかかるし、よい手がかりが得られる保証もなかったが・・ 本人様は快諾された。いい人だ、ありがとう。
さて、CTをみて驚いた。肺炎である。コロナ肺炎に似ているが、やはりPCR
陰性と好酸球増多あり、好酸球性肺炎の疑いでよかろう。S病院へ入院となった。まだS病院からの経過報告は来ていない。おそらくステロイド投与による治療がされているはずだが? 患者さんの希望を「どうせ意味ない」と却下するのは、僕の流儀ではない。患者さんの直感が正解を導く場合も、ままある。本症例は、二度目の採血をするかどうかが分かれ目でした。以上、まるちょう診療録より、文章こしらえました。