近況をふたつ語らせてくれ

ひとつめ。「羊たちの沈黙/ジョナサン・デミ監督」をみた。僕は年初に「映画を10本みる」という目標を掲げるのだが、たいてい3本くらいで終わってしまう。なんだろう?僕って、やっぱり面倒くさがりなんだろうか。アマゾン・プライムのウォッチリストには、30本くらい登録されている。でも、いざみようとすると、腰が重いのねん。

そんな僕ですが、あるときふと「羊たちの沈黙」をみなければ!と思った。それはまさしく「天啓」のように。これをみるのは、たぶん三回目くらいだ。スジも大体わかってる。レクター博士(アンソニー・ホプキンス)という悪のヒーロー。こいつ、ヤバい。超クールな頭脳を持ちながら、人間の臓器を食べてしまう。クラリス(ジョディー・フォスター)の過去のトラウマを聞き出して、連続殺人事件に迫るヒントを与える。このレクター博士という「大いなる矛盾」について、考えずにはいられない。いちばん印象的なシーンは、二人の看守を殺害して、血だらけになりながら(顔面喰ったからね)、グレン・グールドの「ゴールドベルグ変奏曲/バッハ」を陶然とした風に聴いているやつ。おそらくこの時の彼の心電図は洞調律、HR60程度。その心の中にはそよ風が吹き、軽く身体が踊っている。そう、「カ・イ・カ・ン」なのである。つくづく変態野郎なのである。



まさに「最低のケモノ」と「ある種の神性」が同居している。下々の中途半端なサイコパスたちが崇めそうな様相である。でもレクター博士は、それだけの高みにいることは確かだ。そうした「ネガティブな高み」を、ジョナサン・デミ監督は、しかと映像化してしまったのだ。また実際に演じ切ったアンソニー・ホプキンスにも脱帽である。一説にはこの役のオファーは、まずショーン・コネリーに行ったそうだが、拒否された。でもアンソニー・ホプキンスで正解だよ。ちなみに彼は、生粋のベジタリアンだそうです(笑)。以上、プチ「映画コラム」でした。


ふたつめ。プチ「まるちょう診療録より」。70代半ばの女性。主訴は38℃台の熱と頭痛。その他、倦怠感、シャキッとしない、食思不振、不眠もあり。カロナールで熱と頭痛はましだけど、スッキリしない。もともと活発な人で、今の状態が歯がゆいと。夏から調子わるく、体重が6kg減った。両側MMK術後の既往あり。診察では、下腿に結節性紅斑様の皮疹多発。それは圧痛あり、足部の冷感ある。

単なる頭痛ではないことは確か。むしろ全身疾患の印象。また結節性紅斑となれば、膠原病は疑うべし。スクリーニング的に、胸腹部CTとANAを含めた採血実施。一週後に再診を指示。

以上が金曜日のこと。忙殺されて、すっかり忘れていた。翌週の火曜日、午後診のときに、ちょっと暇だったので過去の受診者を調べていると、その金曜日に診たUさんのカルテに遭遇した。「そやそや、こんな人いたな」となる。採血結果はすべて出ていて、ANAは陰性、CRPが1.94と若干上昇くらい。胸腹部CTも、これといった所見なし。

以前の経過を辿っていくと、「こめかみ中心の痛み」や「老眼が進んだ?」などの記述あり。あれ?これ側頭動脈炎(巨細動動脈炎:GCA)じゃないの? 簡単な教科書を紐解いてみると、けっこう合う。なにより、結節性紅斑があるのが、いかにも血管炎らしいし(→ドクターG効果)そこから「発火」が始まった。もしGCAらしい、となれば、うちの総合内科で引っ張るよりも、C病院のリウマチ科にコンサルトした方がうまくいくかな。EvernoteにGCAと高安動脈炎のまとめもした。高安動脈炎は研修医のときに遭遇しているけど、疫学的には若年女性なんだね。あの時も20代の女性だった。ウォークインAMIで冷や汗が出た記憶がある。GCAは疫学的に高齢女性なので、UさんはやっぱGCAか。とか、なんとか。

再診時に、こめかみの診察など。索状の硬結などの所見はなし。圧痛もない。脈は触れないと思ったが・・ その時には「GCA冷めたピザ状態」となっていた。あの「熱さ」はなんだったんだ?みたいな。正直、自分の中で「これでコンサルトしちゃっていいのか?」とさえ、思っていた。 ただ、患者さんが「ぜひ、膠原病の検査もしたい」とおっしゃったので、C病院へコンサルトとなる。まあ、問題なければそれはそれでいいもんね。この患者さんの注目すべき点は、下腿の結節性紅斑と、著明な体重減少。もしGCAと診断つけば、治療法は確立しており、予後も比較的よい。何卒、うまくいきますように。