白血球数30万というウソのような現実(まるちょう診療録より)

その日の外来は混雑していた。10時ごろ、50代の女性を診察した。主訴は左腹部の痛み。一週くらい前から。みぞおちも少し痛い。やや便秘気味。排便は不定期。とりあえず、腹部の触診をしてみる。左腹部全体に、弾性軟なものを触れる。皮下に何かできているのか? 腫瘤のようにも思える。これ自体は、二ヶ月前からあるとのこと。圧痛はそれほどない。左側腹部に少し。とりあえず、腹部CTを撮りましょう。

体重は半年前と変わっていない。食欲は普通。だるさなし。バレーボールなど運動もしているとのこと。それではCTを見てみましょう。・・なんじゃこら? 左腹部の違和感は、脾臓の逸脱した腫大によるものだった(画像参照)。みぞおちは肝臓と圧排しあっており、鈍い痛みがあったと思われる。下方は骨盤腔内へ及んでいる。正直このときは、悪性リンパ腫などを想起していた。この時点で10時40分を回っていたが、採血はすべきだろう。本人様も強く希望された。

さて、採血結果。ときは13時すぎ。 11時ごろにパニック値(WBC 3041×100/μl)が報告されている。忙しい外来業務の中で、どうしたらこんな値になんねん? と首をひねっていた。最終結果が出て、ようやく病像が分かってきた。

血液疾患の場合、白血球分類が大事(画像参照)。まず芽球(blast)が出ていること。そして、さまざまの成熟段階の細胞が出現していること(pro-myelo、myelo、meta-myelo、stab、seg)、好塩基球の増加。そしてもちろん、白血球自体の増加。本例はそれが極めて著明。 以上より、慢性骨髄性白血病(CML)、しかも芽球が増加しているので急性転化のフェーズに入っている可能性ありと診断した。

そうして、本人様とご主人への説明。白血病のムンテラはいつも気を遣う。ただ本例は急性転化まで行っている可能性もあり、とにかく急ぐ必要がある。僕はあえてCMLという言葉は用いず「白血病の可能性があります」と単刀直入に伝えた。入院先としては、C病院では対応できず、RC病院がいいと思います。あそこなら、設備もスタッフも充実しています。ただ、コロナの時世なので、本日の入院は難しいかもしれません。数日後の入院となるかもしれません。今からRC病院と交渉しますが。

「いろいろ一方的に言ってすみません、何かご質問ありますか?」と伝えたが、お二人は固まっておられた。そう、こんな時に「質問」なんて出てこないだろう。いくつか質問があったが、できるだけ分かりやすく、誠実に答えたつもり。でも一般の人に「骨髄穿刺」とかイメージできないよね。でも、骨髄穿刺をして、まずスタートなんです。大丈夫です、ちゃんとやってくれますよ。こうした時は、目を意識して「合わせる」ことが必要。こちらを信じてください、という姿勢である。電カルを見ていたり、目が泳ぐようでは愚鈍と言わざるを得ない。

両人とも納得され、RC病院と交渉。まず採血結果をFAXで送るように言われた。向こうも驚いただろう。こんな血液像、そうはないよね。結局、当日入院は無理だけど、翌日に血液内科を受診するように指示あり。本症例は、もちろんそのまま入院となりました。コロナの時世、ベッド調整があったんだろうね。

後日送られてきた返書には「AML、CML(急性転化の疑い)」と記載されていた。CMLは骨髄穿刺をして遺伝子検査(bcr-abl)などで確定診断となる。でも先方はすでに、CMLの急性転化として動いておられると思う。まずはハイドレアを開始するみたい。57歳の比較的元気な女性、ご家族の心配も相当なものだろう。CMLは慢性期に発見されると、チロシンキナーゼ阻害剤投与で予後がかなり良くなる。この方は正直いって、やや後手に回っちゃったけど、なんとか救命されますように。RC病院さまの底力を見せてください、お願いします。以上、まるちょう診療録より、文章こしらえました。