老老介護はつらいよ(まるちょう診療録より)

80代の女性で、整外科よりコンサルトあり。「左側腹部、帯状ヘルペス?」とある。なんでも、夫の介護で往生しているとか。左腰から肋骨部がピリピリ、キリキリ、ツンツンする。左腰部をみると、小さな紫斑の集簇あり。水疱ではないので、やや帯状疱疹には非典型的だったが、症状的には神経痛である。ホントは皮膚科で診てもらうのが一番なんだけど、その日は休診であった。こうした比較的シンプルな皮疹は、総合内科で対応すべし。僕は帯状疱疹と診断して、アメナリーフ(高齢で腎機能低下でも投与OK)とリリカ(神経痛治療薬)を処方した。

二日後、むかつきとふらつきがあり、皮膚科受診。痛みはあまりなし。皮膚科のDrは「帯状疱疹とは確定できないが、アメナリーフは継続」を指示。むかつきやふらつきはリリカの副作用と判断し、リリカは中止。

その翌日、血圧が高くなっていると、総合内科受診。このときは娘さん同伴。血圧は160~200/100~110程度。それと、食べられない、水分のみ摂っている。気分不良で、あまり眠れない。その中でも夫の介護をしなければならず、非常にしんどい。その高齢女性の表情は、かなり切羽詰まったものだった。疲労困憊というか。


リリカはすでに止めている。アメナリーフの副作用も考えにくかった。eGFRは37.1と低いし、超高齢なので、200mg(通常量の半分)のみ処方している。症状の根本原因がうまく掴めなかったが、とりあえずその日は「不眠☞血圧上昇」があったかと想像し、点滴と眠剤を処方した。痛みはマシになっているのだ。

さらに四日後。とにかく痛い、腰や足が痛い。寝返りできない。幻覚をみる。前は歩行できたが、今は伝い歩き。トイレはなんとか。診療所内はADL車椅子。そして食欲がない。なんとかしてください!と。もちろん、この時も娘さん同伴。診察では、例の左側腹部の皮疹は消退気味。念のため、上体を左右にひねると激痛あり。前傾でも痛みあり。

これは明らかに筋骨格系の痛みだろう。アメナリーフは関係ない。この一週間で状態悪くなっているので、ひととおり調べることに。胸腹部CT、採血、点滴。採血は、軽度好中球増多、CRP1.42、Na132など。CTは腎臓や肝胆膵、後腹膜はNPと思った。CTで脊椎を評価するのは、限界がある。でも、上記の激痛の所見とCRP陽性を考えると、腰椎の圧迫骨折やヘルニアなどを想像した。

さて、問題はここからなのである。この高齢女性は、介護する側なのです。レスパイト入院ができれば理想だけど、この方は、まだちゃんと診断がついていない。まずは整外科の診察を受けるべきだ。でも、この時点で13時45分ごろ。整外科はとうの昔に終了している。なので、翌日受診していただくことになった。

さて、翌日整外科を受診され、L1の圧迫骨折(圧壊ではない)と診断されました。結局、入院とはならず、マックスベルト装着にて外来フォローとなる。娘さんが、この時点では相当に介入されており、入院には至らなかったんだろうと思う。最後に、ホントに介護って大変です。老老介護の核心には「子供には迷惑かけたくない」という心情があると思う。子供はついつい、そうした親の態度に甘えがちだけど、どこかでギアチェンジする必要が出てくる。この症例は、このイベントで娘さんの意識が変わっただろう。以上、まるちょう診療録より文章こさえてみました。