心臓とみせかけて、腎臓だった(まるちょう診療録より)

だいたい心不全というと、ベースに高血圧とか糖尿病、加齢なんかがあるのが普通。あるいはもともと心臓が悪いとか。今回の症例は、そのどれにも当てはまらないので、面食らってしまった。

50代の女性。一週くらい前から、尿の量が減っている。顔やまぶた、足などにむくみあり。パンパンになった気がした。お腹の張りもあった。いつものズボンが締まらない感じ。おとついは仕事を休んだ。もともと62kgだが、おとといは65kg。血圧もどちらかというと低い方だが、なんか高い。

診察では血圧176/100、胸部聴診NP、顔面や両下肢に浮腫はないと思った。この時点で「一過性の浮腫かな?」みたいな印象を持っていた。ただ、血圧は確かに高いし、体重の増加もある。とりあえず、ルーチン的に採血と尿検査。採血にBNPをいれるかどうかちょっと迷ったけど、いちおう入れておいた。






検査が帰ってきて、チョー驚いた。これは患者さんご自身も。彼女も「大病のつもり」で受診されてはいない。あくまで「心配だから念のために」受診されている。まず、BNPは900近く。Cr1.16、Hb10.9、CRP1.38。尿検査では尿潜血3+、尿蛋白3+。アセスメントとしては、心不全の疑い、腎障害、軽度貧血など。追加検査として、心電図と胸部レ線は撮る。心電図はNP、レ線はCTR拡大に両側胸水ありで、まさしく心不全。ちらっとネフローゼの可能性が浮かんだので、採血に総蛋白とアルブミンを追加。しかしこれは正常域。ネフローゼではない。

本人様は重症感なく、外来フォローもちらっと考えたけど、これは単なる心不全ではない。しかし入院となると、本人様への説得がひと苦労。「入院が必要だと思います」と伝えると、ひどく動揺される。それから20分くらいかけて、なんとか納得された。亜急性の経過だし、四日後の予定入院とした。

C病院に入院後、いちばん驚いたのは、両側胸水が消えていたこと。入院当初、腎臓内科ではRPGN(急速進行性糸球体腎炎)の除外を急がれていた。これはとても恐ろしい疾患で、適切な治療開始が必要となる。ただ、入院時採血でASO(抗ストレプトリジンO抗体)という項目が2183と著明高値。これは溶連菌感染後に高くなるマーカーである。その他、IgGやや高値と補体の低値など。総合すると、溶連菌感染後の急性糸球体腎炎という診断となった。これは、その後の腎生検の病理像で確認された。腎臓内科のDrは、本人様が12月末に右人差し指に切創を負い、抗菌剤なしで長い間炎症が続いていたというエピソードを導き出されていた。

そうなると治療の主体は、ずばり安静につきる。その後、尿蛋白は漸減し、約10日後に退院となる。とにかく、RPGNでなくてよかった。RPGNとなると、茨の道である。僕自身は、急性腎炎自体が経験うすい。まず心臓にみせかけて、本丸は腎臓だったという症例でした。よい勉強になりました。