ひどい薬疹がキタヨー!(まるちょう診療録より)

肝を冷やした症例だった。土曜日は皮膚科がやってない。だけど皮膚疾患でうちを受診する人が、わりといらっしゃる。多くの場合、採血して肝障害の有無をチェックして、大まかな外用剤をだしておく。「長引くようなら、必ず皮膚科を受診してくださいね」の一言を加える。

ただ、これが重症っぽい皮膚科疾患だと、こちらも慌てふためくわけ。30代後半の女性(ご主人が同伴)、T師長さんが「顔がバンバンに腫れてるんですよー」とおっしゃる。僕はこういうとき「どれくらい腫れとんねん?」と、わりと好奇心旺盛だったりする。患者さんが入室してビックリ。これまさに「お岩さん」である。上下の眼瞼が著明な浮腫。両頬部もそれに連続してひどい浮腫。もちろん淡く発赤して、すごく痛いとおっしゃる。まずは詳細な問診から。




話を聴くと、どうも二日前に急性咽頭炎でO耳鼻咽喉科を受診したそうである。メイアクト、ロキソニン、リカバリン、ムコダイン、ベタメタゾンが処方されていた。昨日の昼2時ごろから、顔が腫れてきた。夜に薬を継続して飲んで、一気に腫れた。既往としては、関節リウマチ治療中。

ほぼほぼ薬疹でいいと思うが、こうした場合のポイントは「粘膜疹」があるかどうか。もしあれば、SJSなどの重症薬疹として取り扱う必要がでてくる。この女性の結膜や口腔内を慎重に観察する。粘膜疹はないようだ。件の咽頭炎は発赤はあったものの、それほど悪くないように見えた。

ご主人がかなりハンサムな方で、インテリジェンスも十分な感じ。どの薬がクサイかとか、意見交換。やっぱりメイアクトじゃないかという結論となる。ただ問題は、ホントにここで治療してしまうか、あるいはもっと大きな、マンパワーの充実したところで治療すべきか。これはかなり悩んだ。C病院に渡したとしても、やることはそんなに変わらないだろうし。紹介状を書いて移動して、という時間があまり意味ないような気がした。少なくとも「重症皮疹」ではないことは確か。

こういうのは「責任をもって決断する」という局面である。かなりビビってはいたが、エイッと「じゃあ、今からステロイドの点滴と採血をします」と大見得を切った。生食250ccにソルメド125mg+ポララミン5mgで、どうや! 皮疹の形状が膨疹様だったのと、患者さんがアレルギー素因をお持ちだったことから、このメニューに決定した。あ、生食100じゃなく250ccにしたのは、ビビっていたからです。ゆっくり入れたかったので。

さて、点滴後。顔面の膨疹は、緊満感が軽減していた。痛みもましと。でも依然として「お岩さん状態」だけど。採血は、CRPが2程度。肝障害なし。重症という印象ではない。あとは運を天に任せて、抗ヒスタミン剤を処方して帰宅可とした。O耳鼻科の薬はいったん全て止めで。三日後に再診とした。

帰りのJRの車中で、ふと閃いた。顔面のあの部位に膨疹型の皮疹ができるのは、光線過敏症ではないか? 調べてみると、皮疹が出始めたその日、梅雨の間の晴れ間があった。メイアクトが一番悪そうだが、そうするとロキソニンは共犯(むしろ主犯?)ということになる。

再診にて。お岩さん状態は、完全に消え去っていた。若干の赤みが残っていたが、その女性はかなりの美人であることがわかった。美男美女のご夫婦だったわけである。お二人とも、インテリジェンスは高い。光線過敏のことを話すと、体幹部にも皮疹があったようで、光線過敏だけではなかったようだ。やっぱりメイアクトとロキソニン(+日光)じゃないかと思いますが? いずれにせよ、本件はめでたしめでたし、良好な経過で終診となりました。以上、ちょっとビビった薬疹の症例を語ってみました。