ガンで若死にすることについて考えてみた・・山本KID追悼

さる9月18日、山本“KID”徳郁が胃がんで亡くなった。41歳の若さだった。8月にガンの闘病を公表したばかりだったので、衝撃だった。彼の試合をリアルで観たことはないんだけど、現代はYouTubeという便利なものがありまして・・ 彼のピークの頃の試合を何度も刷り込むように観ている。体は小さいけど、その筋肉のハリ、俊敏さ、天性の踏み込み、これらは観ていてスッキリする。やはり彼のいちばんの武器は、一撃必殺の打撃だろうか。よく彼のベストバウトは、例の「4秒KO」を挙げる人が多いけど、個人的には、対ホイラー・グレイシーの試合がいちばん好き。膝げりを紙一重でかわしての強烈な打撃。まさに「ここしかない」というタイミング。魅せる格闘家だったな~



それにしても41歳という年齢! ガンという悪魔は、容赦なく人間を滅ぼしていく。堀江貴文が「胃がんだったら防げたのに」みたいなことを言ってるけど(ひどい言葉です)、それは確かに当たっている部分もある。山本KIDの「油断」も否定はできない。しかしガンという悪魔は、そうした「スキ」に忍び込んでくるのである。あんなに強くて勇敢だった山本KIDが、すでにして今は亡き人となってしまった。なんという痛恨!

もう一人、ガンで夭逝した音楽家を語らせてください。「羊とおはな」というデュオの千葉はなさん。乳がんで2015年に逝去(享年36)。この人の独特のボーカルは、大きな可能性を秘めていた。のどの奥からちょっとこもったような声。この「異な声」が、温かみや癒やしを醸し出す。個人的にベストは「Englishman in New York」のカヴァーなんだけど、PVでは「ただいま、おかえり」がいちばん好き。



前髪ぱっつんの女の子はモデルさんです。歌っている女の人が千葉はなさん。僕はこのPVを観るたびに、なにか涙ぐんでしまう。このPVを初めて観た直後に、千葉さんがすでに亡くなっていることに気づいた。それは心電図を読む仕事の直前だった。僕はその部屋で独り号泣していた。人間のいのちって、なんて儚いんだろうって。そしてその生と死の選別は、常に「ギリギリの一線」で行われる。ギリギリなんです。僕はそこを強調したい。

僕は2016年の夏に、背部の軟部肉腫を発症した。直径は4cm程度。あれががちょっと発見が遅れたら・・ 例えば胸椎の骨膜まで進展していたら・・ 今こうしてキーボードを打つ自分はいなかったかもしれない。上記の「ギリギリの一線」って、けっきょく運だと思うんですよね。それも含めて、運命なのか。そう思うと、特に才能のある人の若死には、とてもやるせない気持ちになる。村上春樹の有名な箴言を挙げておく。

死は生の対極としてではなく、その一部として存在している。


僕は2016年の夏、いったん命を拾った。今は再発を注意しながら、生活しているところです。死は僕たちの体の中に潜んでいる。あるいは精神のうちにも。生きているということは、同時に自分の中に死を育んでいるようなものである。再発を警戒する今は、その「身体と精神のなかの混沌」について、ちょっと分かってきたような気もします。「一寸先は闇」これは、真実です。だからこそ、そうした自分のなかの闇と闘わなければならない。闇はつねに我々のスキを狙っている。

最後になりましたが、山本KIDさん、安らかに。ご冥福を心からお祈りいたします。そうして、ちょっぴり遅いけど、千葉はなさんも天上でステキな声を響かせていて欲しいです。合掌。