総合内科医は「カン」が勝負!(その壱)

日々、総合内科というジャンルで仕事していると、Blogネタになりそうなことは結構あったりする。でも何故か、そういう美味しいネタをスルーして「ネタがないない」という愚かしいことをしている。今回はふと、ふたつの興味深い症例があったので、語ってみます。医療もの、久しぶりやな~

<症例1>82歳 男性 主訴「じっとしているとしんどい、食思不振」 独居

5月1日当院初診。身体所見は特記すべきものなし。初診は私が担当していないが、訴え方がいかにも「認知症あり」という風な感じで、不定愁訴っぽい評価をしがちなタイプか。初診を担当した医師は、定型的に心電図、レ線、採血を実施。心電図とレ線は問題なし。採血は脂質異常はあったようだ。

2日再診。寝ているときに前胸部不快感があったと。足裏がべたっとしていたと。この時の担当医師は、過去の喫煙歴(わりと吸われていたようだ)から、肺疾患を疑い、肺機能検査を実施。案の定、閉塞性換気障害中等度との結果。COPDでいいだろうとの記載。

6日また再診。胸が重いということで再診。自転車は乗れる。あられ工場で働いているとのこと。自炊している。

7日また再診。夜にしんどくなる。ふたたび心電図チェック→ 問題なし。食思不振は続いているので、胃カメラ予約。




9日に胃カメラ実施。しかし問題なし。そこで私の外来に回されてきた。実は前もって初診医師から「こういう患者さんが来られます」的な、ざっとした案内を受けていた。なので、この82歳の独り暮らしの男性が自分の外来を受診されたとき「ああ、この人ね!」とピンときていた。

その患者さんで、9日の外来は終わりだった。腰をすえて訴えを聴こうと思っていた。確かに82歳という年齢。しかも過去の喫煙にて容貌はさらに老けている。話の内容もやや的を得ない。ぱっと見には、やはり認知障害を疑う感じだ。でも・・5月1日からのカルテを精査して、一抹の不安を感じていた。それは「虚血性心疾患」という病態。この人は少なくとも、年齢、喫煙、高コレステロール血症というリスクを抱えておられる。そして再三にわたる受診は、やはり「それだけ苦しい」からなのでは?と思ったのだ。ただ「虚血性心疾患」だけで、食思不振にはなりにくい。冠動脈CTをすることは、すでに決めていた。ただ、頭部の病変はまだチェックできていない。それを問診によって判断しようと思っていた。

しかし、である。いざこの老人と対してみると、その大変さが分かった。上記「やや的を得ない」と記したが、訂正します。ぜんぜん的を得ない。対話により、話がまとまらない。診察の「落としどころ」が見えてこない。二人の「前医」は、この老人の独特の「撹乱」にやられたのだろうな、と感じた。だって、ホント疲れるんだもの。私はとりあえず、冠動脈CTのオーダーを入れる。これがまた一仕事で、すんなりと行かない。入れ終わった後で「頭がどうの」ということを仰るので、頭部CTも今日やっちゃいましょう! と、半ばキレ気味にその老人に言い渡した。

頭部CTは問題なし。高齢なので硬膜下血腫など心配していた。冠動脈CTは、翌日10日に入れることができた。入れるには入れたが・・私はその老人との「混迷を極める」対話の中で、「やはりこの老人は単に認知症なのかもしれない」と感じ始めていた。ちょっと俺、熱くなりすぎたかな?みたいな。

さて、翌々日11日に出勤すると、内科師長さんから「木曜日の冠動脈CTの人、そのまま循環器フォローになりました」との知らせ。私は一瞬なんのことか分からず、うやむやに返事していたが、しばらくして「あの老人」を思い出した。11日は金曜日でわりと余裕のある外来である。診療の合間にその老人の冠動脈CTの結果をチェックしてみる。愕然とした。右冠動脈と左回旋枝に有意狭窄あり。特に右冠動脈はひどくて、90-99%の狭窄が三カ所もあった。つまり三段締めね。正式な診断名は「不安定狭心症」。82歳のおじいさん、さぞやしんどかっただろう。でも、それを自分で言語化するのが極端に下手なんだな。年齢もあるけど、たまにそういう人はいます。翌週、右冠動脈に三カ所ステント留置されて事なきを得た。ほっと一息。(次回、症例2へつづく)