世界で一番貧しい大統領、ホセ・ムヒカさんを語る

「世界で一番貧しい大統領」として知られる南米ウルグアイのホセ・ムヒカ前大統領をご存じだろうか。昨年四月に来日して、各方面のメディアにも広く紹介されたようだ。ひとつ紹介がてら、動画をご覧いただきたい。2012年6月に行われた国連主催の環境会議でのスピーチ。「人間はどうしたら発展しつつ地球環境を守っていけるか?」という議題。各国代表が意見を述べる中、ムヒカさんのスピーチが反響を呼んだ。10分程度のものなので、とっつきやすいかと思います。ムヒカさんの思想のアウトラインを把握していただきたい。



この人の哲学のベースは「左翼」である。20代には極左都市ゲリラに属し、かなりラディカルな活動を行った。六発の銃弾を受けて死線をさまよい、四度の投獄と二度の脱獄を経験したとされる。1972年から13年近く収監されたとも記される(以上、Wikiより)。これは想像だけど、おそらく理想に燃える青年だったんじゃないかな。長い年月を経て「目の前の困難をいかに救うべきか」という苦しくて実直な思索から、現在の「思想の深み」が醸成されたと推察します。ベースは左だけど、それを感じさせないほど深遠で丸みのある哲学。

そうした哲学が、資本主義社会の日本で歓迎されるというのが、ちょっと面白い現象ではある。というか、疲弊した資本主義社会だからこそ、ニーズがあるのね。ある意味、干からびた砂漠をうるおすオアシスのような思想じゃないかしら。右に傾きすぎると、いつしか人は閉塞感を感じるだろう。ムヒカさんの哲学は、そこに風穴を開けてくれる。

具体的な話をしてみましょう。例えば、Amazonのサービス。Webでポチッとしたら、翌々日くらいには商品が届く。早ければ翌日。あるいは朝ポチッとして、夕方届くなんてこともある。今ではヨドバシWebなんかも、同じくらい早く届く。そりゃ、消費者はより早く届くサービスを選ぶよね。でもね、ちょっと待って。Amazonが黒船来襲みたいな感じでやってくるまでは、こんなサービスなかったんだよ? いつの間にか「これが当然」みたいになっちゃってるでしょ? こうした便利さの裏側にある「疲弊」を感じ取れないだろうか? ムヒカさんは、まさにここを言っている。そんな便利さは「くそ食らえ」だと。Amazonや宅配で働く人の疲労。それ以上に問題なのは、消費者の意識だ。彼らはもはや「待てなく」なっている。Amazon以前の流通には、もう戻れないのだ。それが資本主義社会の宿命だから。時間は息つぐ暇もなく過ぎ去る。いつしか「他者を許す」心のゆとりさえ圧殺されるのでは? こうした一連の砂漠のようなパラダイムが、無意識のうちに人々に刷り込まれていく。便利な社会だけど、それは本当に幸せなんだろうか?

ムヒカさんの個人財産は、フォルクスワーゲン・タイプ1(ビートル)とトラクター、農地、自宅のみ。報酬の大部分を財団に寄付し、月1000ドル強で生活しているとされる(以上、Wikiより)。つまり、彼にとってカネやモノは最小限でいいということね。必要以上のカネやモノは、人間を幸福にしないと考えておられる。これはまあ、たぶん真理なのです。ムヒカさんのすごいところは、この困難な真理をちゃんと実践されているところです。そこには若い頃と同様のラディカルな闘争がある。それは消費社会という罠、人間の尽きない欲望、拝金主義、物質主義、こうした一連の敵に対するレジスタンスなんだな。81歳になられるけど、常軌を逸するほどに熱い。

最後に、昨年四月に日本の学生に語った言葉を載っけておきます。いい言葉です。

すべての生命はエゴイズム(利己主義)を持っています。それは自分自身を守るために、自然が私たちに与えてくれたものです。でも、人間はひとりでは生きていけません。必ず他者を必要とする生き物なのです。他人に勝つために戦うのはやめてください。そうではなくて、自分自身の心の中にあるもののために戦うのです。