なぜ清原は麻薬中毒になってしまったのか?

今月3日に、元プロ野球選手の清原和博が、覚せい剤取締法違反(所持)現行犯で逮捕された。清原って、オレとほぼ同い年なんだよね。50歳を目前にしてこの「喪失」は、あまりにも辛いだろう。生きている意味すら、今は分からないんじゃないかな? それほど厳しい状況と言える。この「転落」の一番の根っこはなんだろう? きっかけはたぶん、清原が「自分のピークが過ぎた」と自覚したことじゃないかな。それにつづく「引退」という非情な幕引き。アスリートにとって「引退」の背後に潜む「闇」について、ちょっと考えてみたい。

野球に限らずアスリートが引退する時って、なにか特別な感情が渦巻いている気がする。それもアスリートとして大成功を収めた人ほど、その「引退という容赦ない終焉」は、辛いものだろうと思う。おそらく想像を絶する喪失感、虚脱、不安じゃないだろうか。筆舌に尽くしがたい複雑な感情・・哀しみ、悔しさ、怒り、寂しさなどが、引退する選手の心を占めているはず。それは結局、各々のアスリートにしかわかり得ないし、あるいは本人でさえ、それを整理できないかもしれない。


アスリートの寿命は、どうしたって短い。人生のたかが中盤までで、そのピリオドはやってくる。そうしてその「非情な現実」をうまく受け容れられなかった人たちは、引退後にトラブルメーカーになったりする。具体的な例を挙げると、江夏豊(野球)、渡辺二郎(ボクシング)、マイク・タイソン(ボクシング)、マッチ・ニッカネン(スキージャンプ)・・もっといると思うけど、なかなか思い出せない。

清原を含めて、上記のアスリートは超一流の人たちである。引退後だって普通にしていれば、それなりのレールが敷かれていたはずだ。しかし彼らは、それを拒否したのだ。あえてレールからはみ出て、暴力をふるった。自分を壊しつづけ、社会から逸脱したのだ。

個人的な意見ですが、天才アスリートの中には、必ず一抹の「狂気」が宿っている。スパイスとしての「狂気」が、それまでの常識をくつがえし、驚異的なインパクトを残す。なぜなら「狂気」は平凡を嫌い、逸脱することにより閃光を放つから。研ぎ澄まされた肉体と頭脳に、そうした「狂気」が加わることで、彼らはアスリートの歴史を塗りかえてきた。しかし・・ 引退という通過儀礼を、頭では受容したつもりが、心の深淵で「否」とした場合。引退したら、肉体も頭脳も衰えていく。残るのは、心の深淵でくすぶる「狂気」だけじゃないのか? その「狂気」は無意識(エス)の中で増殖し、次第に「元天才」を狂わし、自他への暴力の道へと向かわせる。

もちろんアスリートにも対極的な人はたくさんいる。例を挙げると、桑田真澄(野球)、中田英寿(サッカー)、江川卓(野球)、西岡利晃(ボクシング)など。彼らは「現役」と「引退後」という人生の流れについて、ちゃんと設計していた人たちだ。彼らは「人間としての限界」について、深く考えた人たちだと思う。才能の限界という認めたくない現実に、苦しみながらも了解した人たちだ。逆に言うと「計算高い」とか「器用」などの揶揄があるかもしれない。でも、人生ってやっぱりトータルで考えるものですよ。人生をある程度、計算して生きていくことは、まったく恥じることはないと思う。

太宰治は「父」という作品の中で、清原をこのように代弁している。

義とは? その解明は出来ないけれども、しかし、アブラハムは、ひとりごを殺さんとし、宗吾郎は子わかれの場を演じ、私は意地になって地獄にはまり込まなければならぬ、その義とは、義とは、ああやりきれない男性の、哀しい弱点に似ている。

太宰の人生にも「狂気」がまとわりついていた。それが「義」とさえなる、その凄絶さは、清原の引退後の人生にも通じるのではないか。破滅願望という内なる悪魔を想う。結局のところ、清原は優しすぎた。いや、甘かった。そして弱かった。おのれの「狂気」をコントロールできず、次第に「内なる悪魔」のいいなりになっていった。「内なる悪魔」というやつ、こいつは特別なもんじゃない。どんな男性にだって巣くう可能性はあるとオレは思っている。弱き者は、それを自身から排除できない。アスリートの心に「スキ」ができるのは、まさに「ピークを過ぎたあと」ないし「引退後」だろう。悪魔はそれを虎視眈々と狙っているのだ。

ピークを過ぎたアスリートの苦悩を想う。頂点を極めた人は、どこで線引きをするのか、いつも迷うと思う。過去には野茂英雄(野球)。現在はイチロー(野球)、野口みずき(マラソン)。現役をなんとかして続けたいという渇望と、どうしようもない肉体の衰え。この焼けるような葛藤は、本人にしか分からない。葛藤といえば浅田真央(フィギュアスケート)も心配。彼女はピークが過ぎたとは思わないけど、現役選手としての苦悩の中にいることは確か。でもね、彼ら「頂点を極めた人たち」は、ずばり人類の宝ですよ。ぜひぜひ引退後の生活設計を冷静にしていただきたい。老婆心ながら、オレっちはそう思うんですよ。渡辺二郎みたいに、ガチのやくざになっちまうのは、最悪だと思います。そんなのはとても残念。以上「なぜ清原は麻薬中毒になってしまったのか?」と題して書いてみました。