英国王のスピーチ/トム・フーパー監督(2)

前回にひきつづき「英国王のスピーチ」をネタに、少し語りたい。本作のクライマックスである、ジョージ六世のスピーチ。5分ほどのシーンだけど、いろんなもの・・技術、知恵、センスなどが、濃密に盛り込まれている。これまた2011年のときは、わりとすっと流してしまっていた。トム・フーパー監督が、いかにこのシーンに重心を置いていたか。二回目にして、ようやくその「濃密さ」に気づいた。いちばん感心したのは、音楽です。BGMに流れる「ベートーベン交響曲第七番第二楽章」が、神がかり的にピッタリきている。普通、こうした既存の音楽は存在感が強すぎたりして、えてして「余分な感じ」を与えてしまうんだけど、このシーンは素晴らしく合っている。まるちょうは、神業に近いとさえ思います。では、そのシーンをご覧下さい。



このシーン、すごく静かなシーンなんだけど、紛れもなく「闘い」を描写しているんですね。誰と闘うって? そりゃ、おのれ自身ですよ。ジョージ六世が、内なる「化け物」と闘っている。そこには、決して逃げないジョージ六世の姿がある。ぶざまでも、ぎこちなくても、とにかく目の前の責務をこなす。これって、わりと勇気がいることです。だって、格好悪いんだから。へんにプライドの高い人なら、ダメでしょう。いろんな意味で「闘い」なんです。

ローグが言う「頭をカラにして、私に向かって言うんだ。私だけに、友達として」と。そうしてジョージ六世の「闘い」が始まる。コリン・ファースは、そうとうな努力家だと想像する。本作において、吃音について大いに勉強しただろうし、ジョージ六世のスピーチについても、残っている資料はすべて勉強したはず。初回限定版には、リアルなジョージ六世のスピーチが特典として収録されています。コリン・ファースがいかに熱心か、分かると思う。興味のある方は、どうぞ



音楽について。「ベートーベン交響曲第七番第二楽章」は、ややテンポの遅い「しみじみとこみ上げる」音楽だと思う。本作では、スピーチの開始と共に流れ始める。ごくごく小さい音から始まり、次第にリズムをつけて大きくなってくる。後半の力強さ、勇ましさはすごい。実際には、第二楽章の半分くらいがBGMとして使用されている。最後の「We shall prevail.」と共にフェード・アウトしていく。極めて巧妙な使い方だと思う。

ジョージ六世が、自身の内に潜む「化け物」と、まっすぐに対峙して格闘するに相応しい音楽だ。この音楽の意味するところは、もちろん「静かな勇気」だと思う。雄叫びを上げるようなんじゃなくて、静かな、淡々とした勝利。漫画みたいなステレオタイプの世界と違い、リアルな「闘い」とは、こういうのを言うのだ。目に見えない葛藤、勇気、闘い、克己。

最後に蛇足ながら、ひとこと。ジョージ六世の奥様、エリザベス(ヘレナ・ボナム=カーター)が、とてもいい味。夫を懸命に支える姿が、とてもいいな~、と思っていた。そう、本作は夫婦愛のドラマでもあるのです。ヘレナ・ボナム=カーターが、途中から太めの濱田マリに見えてきて、なんかおかしかった。いらんこと言うた、すんません(笑)。でも、それほど「情の深い中年女」という印象(褒め言葉ですよ)を持ったんですね。スピーチが終わった後の彼女の涙なんか、いいな~と思ってしまう。以上、とりとめなくなりましたが、「英国王のスピーチ」について、感想Blog書いてみました。