お嬢さんお先にどうぞ・・「同棲時代」より

31漫画でBlogのコーナー! お気に入りの短編漫画をネタに、文章書いてみます。今回は柴門ふみの短編集「同棲時代」より「お嬢さんお先にどうぞ」を選んでみる。けっこう心理的に込み入った話です。まずはあらすじから。

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コウジとユカは同棲一年目のカップル。コウジは売れない画家、ユカは薬剤師。ある日ユカが幼なじみのチャコを連れてくる。チャコはデパートのギャラリーに勤務していて、偶然にもコウジの絵のファンだった。それ以来、ちょくちょく遊びにくるようになる。次第にチャコはコウジに惹かれていき・・ でも、ユカはチャコにコウジを、なぜか「ゆずろう」とする。そういう言動をとってしまう。ある日のピクニックのあとユカ曰く「チャコはコウちゃんに惚れてるわ。寝たら?あたしはいいのよ」と切り出す。「なにいってんだ!」と混乱するコウジ。ユカは部屋を出て行く準備を密かに進めていた。00疑心暗鬼となるコウジ。ユカに新しい男ができたのか? そんな不安定な心のなりゆきで、ユカの夜勤中にたまたまチャコとコウジは一夜を共にしてしまう。

53明朝、コウジはチャコと寝たことをユカに伝える。「まさか本当に・・」と言葉を残して、部屋を出て行くユカ。その後チャコと同棲することになるが、コウジは何か落ち着かず、仕事もはかどらない。チャコは美人でいい子なんだけど・・  実は高校時代に、ユカはチャコのBFを奪っていたのだった。チャコ曰く「あたし、昔のことはちっとも気にしていないのに・・ ユカったらひょっとしてそのお返しに・・ 違うわよね、コウジさん?」 結局チャコとも数ヶ月で別れ・・ 三年後、コウジは別の女性と結婚した。絵も少しずつ売れてきた。そんな中、ユカから電話あり、少しだけ会って話せないかと。「三年前、どうしてあたしが出て行ったかわかる? あたしのこと、友情に厚い女だと思った?」「うん・・」ユカは言う「違うのよ。チャコと寝たあなたを許せないと思った。チャコも許せない・・と、その瞬間感じたの。だから、家を出た」と。別れの挨拶をして見送るコウジのやるせない瞳。「お先にどうぞ、お先にどうぞ・・」ブランコをゆずり合った女の子たちは、もういない。

柴門さんお得意の「女性の心理もの」です。本作で大事なモチーフは「少女時代のブランコ」。どっちが先に乗るかもめて、結局二人で一緒に乗った。あ~「女の子の奇妙な連帯感」ってあるよね~。45「カーストという共同幻想により出来上がった女の子の結束」・・こう言い切っちゃうと生々しいけどね。普通男の子はそこに入れないが、思春期になると恋愛という、ある意味での逸脱が生じる。チャコは高校時代のユカの「逸脱」を許したのね。それはチャコがまだ「女」でなかったからだ。チャコというキャラは、美人だけど男好きしない、小悪魔性がないタイプ。「男を喰ってやる」というタイプではないのだ。しかし男女関係において、そうした「恭しさ」というのは、往々にして裏目に出るものだ。女としては、損なタイプ。

三年前、あたしは・・許せなかった。もう女の子じゃない。おとなの女になってしまっていたのよね。最近になってやっとわかったわ。でもあの頃、それに気づかずにあたしったら・・

結局、コウジは少女時代のブランコではなかったのだ。ユカ曰く「女の方からワナをはっておきながら、いざ実際にそうされてしまうと、身震いするほど嫌悪した」と。唐変木な男性には到底理解できない心理である。13「揺れる乙女心」☞専門用語ではアンビバレンス。太宰が「女のシノニムは臓物」と表現したココロが、ここにある。「どっちやねん、お前」というのは、現代では女性に限らないけどね。

それはおいといて、上記の「女の子の共同幻想」は、恋愛という逸脱により分断される。これは宿命的な流れであり、誰にも止めることはできない。本作はその「共同幻想=ブランコ」のはかなさを描こうとしていると思う。少女はいつか「女」となり、愛しい男と付き合い、結婚して、各々の家庭を持つ。あるいは仕事に生きる女性だっているだろう。45思うんだけど、いわゆる「大人の女」というのは、そうした少女時代のような「幻想=群れたがり」から離れて、一人の男、あるいは仕事を選んだという「十字架(大げさかw)」を背負える人じゃないかと思うんです。孤独に耐えて、何かに殉ずることのできる人は、男女を問わず「大人」と呼べるんじゃないかな。

「大人の女」は少女時代の友達を気遣いながらも、自分の人生を生きるのに忙しい。本作の最後にユカがコウジに尋ねる「チャコとうまくやってる?」と。コウジは「う・・うん、もちろんだよ!うまくやってるさ」と嘘をつく。ここのコウジの切なさって、どうだろう? 嘘も方便というけど、コウジは自分の無力さを痛いほど感じたはずだ。でも、それが運命だし人生なんだもん、しょうがないよ。コウジとユカとチャコは、それぞれの人生を生きる。15幻想は所詮、夢まぼろしに過ぎない。人生は歳を重ねるごとに、どんどんリアルになるんです。嫌なくらいにね。でもたまに子供の頃を思い出して、ぼんやりするのもいい。例えば、ブランコをゆずりあったあの頃のことを。以上、漫画でBlogのコーナーでした。