「私」と「僕」と「オレ」

「村上さんのQ&A」のコーナー! 今回も「そうだ、村上さんに聞いてみよう」から質疑応答を抜粋して、まるちょうなりに考えてみたい。

<質問>ぼくは21歳の大学生です。質問なのですが、村上さんは友達と話すとき、どのような口調なのでしょうか? 小説やエッセーなどを読んでいるとそれらの口調しか想像できません。メールの返事などで「俺」などを使っているのを見ると、とても違和感を感じます。

<村上さんの回答>こんにちは、村上は実際にはわりに雑然と生きておりますので、場合によってはオレって言うですよ、俺。とくに自分では違和感は感じないですけど。わしとか、おいらとかは言わないです。さすがに。

<まるちょうの考察>やっぱり、村上さんには「俺」は似合わないなぁ(笑)。やはり「僕」のイメージが定着しているんだと思う。でもそれは、読者の勝手な思い込みであって、リアルな村上さんは「俺(オレ)」って言うだろう。それで普通だよ。村上さんほどの人物になると、そのパブリックイメージが独り歩きして、妙な先入観を生み出す。たぶん私的に会ったとしたら、村上さんって、すごく気さくな人だと思うけどね。まさに「オレ」の似合う紳士なんじゃないかな。


一人称を表す言葉には、大きく分けて「私」「僕」「オレ」のみっつがある。一番応用範囲が広いのが「僕」、公的な場面で使うのが「私」、私的な場面で使うのが「オレ」という感じか。言い換えると、相手との距離が遠いときは「私」、近いときは「オレ」。そうすると「僕」という一人称は、かなり曖昧な表現方法だと言えるかもしれない。

例えば、まるちょうがお蝶夫人♪と付き合いだした2002年。初めはもちろん「僕」だった。それがいつの頃からか「オレ」になった。いつだろう? ・・それはやはり何らかの「距離が接近する事象」があったからに違いない。心を許せるからこそ「オレ」なのだ。

会話上手な人って「僕」から「オレ」への切り替えが巧みなんじゃないかな? お互いの距離がまだ縮まっていない時点で、会話術として「オレ」という人称を使用するわけね。自分が投げ込んだ石に、相手がどう反応するか観て、自分の出方を決める。もし相手が拒絶しなければ、距離が縮まる。反対に、もし相手が「なんやこいつ?」という顔をしたら「僕」へ戻す。生来的に政治的才能のある人は、大体においてこういう駆け引きを無意識に行っている。したがって、異性にもモテる。こうした人は、たいてい自信家である。結果的に「豊富な人脈」を獲得するに至るわけね。困ったもんだ。

まるちょうは、てんでダメです。「僕」なら、ずっと「僕」のままです。相手が「ささ、膝を崩して・・」と言うまで「僕」です。だから、いつも言うけど「女性を口説く」というのは、したことないです。どうやったらいいか、分からんし。村上さんもそうじゃないかと思うんだけど。そんな風に言うと、「僕」を使う人が「奥ゆかしい」あるいは「ずけずけ入ってこない」人☞性格のよい人という印象を与えるが、そうした人々が世界を制するのは稀だ。つまり、結局そういう人って、いわゆる「負け組」になりやすいのね。どうしても「受け身の人生」になりがちというか。「人生を切り開く」という観点では、少し物足らないキャラなんです。

だから、まるちょうはこうやって、せっせとBlogを書いています。文章や画像ならば、相手の心に切り込んでいける。「あれ?こいつおかしい奴やな・・」という波紋を、相手の心に作ることができる。リアルに会話するのに比べると、とても回りくどいやり方だけど、自分のコア(表象的には出てこない面)を感じてもらえる。相手が不特定多数だとしても、それは嬉しい事に違いない。文章って、そうした「コア」が出やすい表現方法だと思うんだけど。

最近のBlogで言うと、「オレ」に相当する”投石”は「フジツボ」です(笑)。「小説 40cmのペニス」の主人公は、いちおう三人称だけど、あれは確かにまるちょうの「しぼんだナニ」をシュールに描写している。読者に対して、突っ込んでいった部分です。「フジツボ」というメタファーは、私のまさに「コア」から絞り出されたものです。読者に右ストレート、だな。リアルな会話と違って、その反応はイマイチ分からんのだけど・・(笑) でも、いいんです。自分の「深部」を表出できた喜びが、何よりも強い。自分、相手に突っ込んでいけるやん! オレ、やるやん!みたいな。

最後にひとこと。「オレ」が行き過ぎると、うっとうしくなる。だから、リアルでもBlogでも、バランスが重要。常に相手があっての事だから、暴走してはいけない。人間関係における要諦である。でも、一昔前には、Blogとかネットとか無かったわけだから、ありがたい世の中です。この文章を読んでいる「あなた」に、これからもちょっかい出します。よろしくお願いします(^^)。

以上、村上さんのQ&Aのコーナーでした。