7つの習慣/スティーブン・R・コヴィー

「7つの習慣」(スティーブン・R・コヴィー作)を読んだ。この本とは何というか、偶然の出会いだな。実は、勤務先の当直室のベッドの書棚にたまたまあったもの。本の内容までは読んでいなかったが、冒頭の「はじめに」と「本書を讃える人々」という数ページを読んで、「これは相当な良書に違いない」と直感が働いた。当直室は実際のところ、そんな堅い書物を読みたいと思う場所ではない。手帳に書名と作者の名前を、とりあえずメモして、その時は漫画でも読んだと思う。その後、いつしかアマゾンの中古でこの本を取り寄せ、そしていつしか読むことになった。

本書は、一見ビジネス書のようであるが、実はそうでない。実際、ビジネス書としては全世界の歴史上最高の売上を誇り、著者のコヴィー博士は英国の「エコノミスト」誌によれば、世界で最も影響力のあるビジネスの思想家と評価されている。本書の副題にも「成功には原則があった!」という一種の煽り文句があるしね。でもまるちょうが思うに、本書は別にビジネスマンだけが対象ではない。大まかに言うと「自我を持つ全ての人間」が対象である。上記の副題の「成功」を「幸福」にすり替えても、全然構わないとさえ思うんだけど。「実践的な哲学書」という位置づけが良いのではないかと思っている。

人生の扉を開く「7つの習慣」として、以下が示されている。

1.主体性を発揮する

2.目的を持って始める

3.重要事項を優先する

4.WinWinを考える

5.理解してから理解される

6.相乗効果を発揮する

7.刃を研ぐ



さて、こうした哲学書をBlogに取り上げるのは、とても困難を伴う。要するにポイントが多すぎるのだ。それを肌で感じるためには、実際に読むしかない。ここでは、ひとつに絞って語ってみたいと思う。

以前から「パラダイム」という言葉に興味を覚えながら、イマイチきちんと理解できずに過ごしてきた。本書は第一部の「パラダイムと原則について」という箇所で、懇切丁寧に「パラダイム」という言葉の意味と奥深さが記されている。本書の言葉を借りるなら「パラダイムは世界を見る見方であり、私たちの認識、理解、解釈を決めるもの」ということになる。根本的な変化を求めるなら「パラダイムの転換」が必須なのだ。

例えば左の絵を見て欲しい。どのように見えるだろうか? 若い婦人? それとも老婦人? 答えはいずれも正解。どちらかにしか見えないというのは、あなたがそういうパラダイムに固着している証拠だ。この絵はあくまでも「ふたつの意味」が含まれている。ひとつのパラダイムに束縛されている限り、新しい局面は見えてこない。根本的な変化は訪れないのだ。「もうひとつの意味」に気付く瞬間・・つまり「ああ、そうか!」という感覚を大事にしたいものだ。

人間関係における様々な問題。これを解決するのに、応急処置的に上辺だけで対応しようとして失敗している例がいかに多いか。短期的にはうまく行っても、長い目で見るとまた別の問題が噴き出してくる。コヴィー博士は、こうした深刻な問題を解決するためには、新しい、もっと深いレベルの考え・・有意義な人生や人間関係を支える原則に基づいたパラダイムが必要不可欠と説く。コヴィー博士は「インサイド・アウト」(内から外へ)のアプローチを提唱する。つまり、問題解決にあたり「他人のせいにしてどうこうしよう」とするのでなく、まずは自分自身の内面(インサイド)を変えることから始めるということである。自分自身の根本的なパラダイム、人格、動機などを、まず見直すことから始めること。その上で自分を取り巻く人間関係に向かい合うという手順。

コヴィー博士によると、まず人間は「依存」の状態から始まる。そして次に、自分を確立して「自立」する。その上で「相互依存」の状態へと成長して行く。「相互依存」とは要するに、オバマ大統領の「Yes, We Can!」のことです。「私」というパラダイムだけでは不可能だったことも、「私たち」というパラダイムが形成されれば、もっと素晴らしい結果を出すことができる。つまり「自立」は最も高いレベルではない。「相互依存」を達成している人は、ほかの人と深くかつ有意義な関係を築くことができ、彼らの持つ巨大な能力や可能性といった資源を自由に活用できるのだ。

以上のようなことは、本書の総論的な部分で重要なところのひとつ。総論的事項が70ページほど記述された後、各論的な「7つの習慣」の記述が始まる。それにしても・・習慣とは怖いものです。「人格とは繰り返す行動の総計である。それゆえに優秀さは単発的な行動にあらず、習慣である」他にも「習慣は太い縄のようなものだ。毎日一本ずつ糸を撚り続けると、やがてそれは断ち切れないほどのものになりうる」などの言葉が載っている。かの三木清も曰く「人生において或る意味では習慣がすべてである」と。今一度、自分のパラダイムを見直して「よい習慣」を身につけたいものだと思う。そうした向上心のある方にとって、本書はとても素晴らしい読み物で、再読に価する。ずばりお薦めします。